第2章 第26話 殺人機

 吐き気と眩暈めまいがして体も震える。

 地面に手をついて嘔吐すると、さっき食べたものが全て出てきた。

 しかし盗賊は容赦なく剣で斬りかかってくる。


「ユーさん!」


 どうやら近くに数人盗賊がいた様だが、リアが魔法で倒してくれた。

 何やってる俺! リアは疲れているんだぞ! しっかり、しっかりしろ俺!!

 斧を杖代わりにして立ち上がると、すでに盗賊に囲まれている。


 前に3人、左右に2人。

 ほぼ同時に斬りかかってきたが、後ろに下がって数本かわし、正面から来た1本を指で掴んで止めた。

 見えては、いる。体も、動く。 なら、出来るだろ、俺。

 指に力を入れて剣を折り、斧を持ち上げて振り下ろす。




 よし、俺が注意を引ければ2人が楽になる。

 盗賊の中を走り回ってやる!

 しかし途中で何度も意識を失いかけ、胃液すらなくなったのに吐き気は止まらない。

 気持ち悪い。視界が定まらない。頭が痛い。


 俺は   意識を失った     。




 目が覚めると地面が見えた。

 うつ伏せで倒れていたようだ。

 まだ気分がすぐれないな、えっと、何してたんだっけ。


「盗賊!」


 戦闘中に倒れてしまったのか! なんてこった、リアは、ベネットは!?


「おおっと落ち着け、賊はもういない。しばらく休んでろ」


 慌てて体を起こしたらアズベルが居た。

 え? いない? ああ、アズベル達が倒してくれたのか。

 地面に座り直すとリアやベネット、エバンスとアニタさんもいた。


「ごめん、また戦闘中に倒れちゃった」


「構わんさ。それよりすまねぇ、向こうの囮に気を取られているうちに本体が襲われるなんて、冒険者失格だ」


「リアが香りに気づいてくれたからね、大丈夫だよ。それより盗賊はどうする? 歩きで連れてく?」

 

「ん? ああそれだがな、お前には悪いがとどめを刺しておいた」


「え?」


「どのみち連れてはいけないし、放置すれば生きたままモンスターに食われるだけだ。犯罪者とはいえ、それはあまりに不憫ふびんだからな」


 ああ……そっか、それもそうだな。いくら俺が殺さないでおこうと思っても、結局はモンスターに殺されるのか。

 俺のせいで2重に苦痛を味あわせてしまう。

 自己満足だけど、せめて手を合わせるくらいはしよう。


 立ち上がって死体置き場に行こうとするが、なぜかみんな邪魔をする。


「ユーさん、顔と服が汚れてるから拭こ? ね?」


「ユグドラ、お前は疲れてるんだから休んでればいい」


「さっきの戦い方で教えて欲しい事があるのよ」


「ルリ子に替わって魔法を教えろ」


 ? いや俺は手を合わせに行きたいんだけど。

 

「ああ、後でやるからちょっと待ってて」


「お、おい」


 沢山の死体が積み上げられ、邪魔な鎧や武器は近くに置かれている。

 真っ二つになった金属鎧、真っ二つになった剣……この切り口は?

 1つ手に取って切り口を見る。

 金属の鎧がへしゃげる事無く切れている。

 アズベルの細身の剣では無理だ、ベネットの剣でも無理、魔法でこういう切り口は作れない。

 他の冒険者ではどんな武器を使っても作れない切り口だ。


「俺が……殺したのか……?」


「ほ、ほらあの時はそんなこと考える暇が無かったし、馬車にも被害は出なかったし、ユーさんのお陰でみんな助かったんだよ? 気にする事ないよ」


 俺は戦っている最中、意識が朦朧もうろうとしていた。

 どうやって戦っていた? 斧を振り回して、力加減をして。

 していない!

 俺は斧を振るったのは覚えている、しかしあれは意識してのことじゃ無い!

 自動反撃オートカウンターか!

 

 普段は意識して斧を扱っているから発動しないけど、意識が朦朧としていてオートカウンターが出てしまったんだ!

 じゃあ俺はオートカウンター状態で走り回っていたのか!?


「リア! ベネット! 怪我人は出なかったのか!? 俺が何も考えずに戦って、怪我人は!?」


 オートカウンター状態は相手を選べない。

 味方が近くにいた場合巻き添えで怪我を、最悪殺してしまう事もある。


「それは大丈夫。倒し終わったらすぐ倒れちゃったし」


「あの時はまるで鬼神の様だったわ」


「そうか、なら良かった」


 意識が朦朧として、結局沢山の人を殺してしまった。

 また、俺は人を殺して……しまった。

 

 以前なら感じなかった気持ちがあふれ出てくる。

 俺は人を殺してしまったのだと、いくら犯罪者とはいえ、沢山の人を殺してしまったのだ、と。

 罪悪感、嫌悪感、悲しみ、落胆、絶望、不安。

 トラウマになった事と理由は同じだ。


 やっと現実だと理解できたんだ。

 どれだけ殴られても、どれだけ殺しても、たとえ死んでも、この世界で俺はゲームをしていた。

 精々ヴァーチャルリアリティ感覚だった。


 しかしリアのお兄さんを知らずに殺していた事で、愛しい人を自殺に追い込んだことで、俺はやっと現実なんだと気がついた。

 

 でもこの世界は俺をゲームシステムから抜け出させてはくれない。

 殺したくないと思っても、自動的に殺してしまう。

 

 どうやっても俺は、人殺しから抜け出せない。


「なんだよ……何をさせようって言うんだ俺に!!」


 星も月も、暗い夜空は何も答えてくれない。

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