第57話 少しは説明してやらねばならんのぅ

 キャラクターチェンジ


 ⇒番長


 ◆ルリ子 ⇒ 番長◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


 ふぁ~~あぁ、あくびが出たわい。

 ちぃっとばかり眠いが、早起きは三文の徳と言うからのぅ!

 それでは軽くラジオ体操をするか!


「体をねじる運動~じゃ」


「腕を振ってあしをまげのばす運動~じゃ」


 深呼吸をして~すぅ~はぁぁぁ~。

 うむ! ラジオ体操はええのう! 目が覚めるし体の調子が良くなるわい!

 うむ? なにやら周りの連中が奇異な目でみておるが、なにかあったのかのぅ。


 ぐぅ~、と腹が鳴った。

 そういえば昨晩はメシも食わすね寝てしもうたからな、そりゃ~腹の虫も鳴るわい。

 どこかで炊き出しをやっておらんかのう、お、あったあった。


 少し離れた場所で沢山のかまどが作られており、大きな鍋が置かれておる。

 ええ匂いじゃな。


「このメシはワシももらってええかいのう?」


 すでに数名が食っているから良いと思うが、一応くばっている奴に聞いた方がいいじゃろ。


「はい構いません。えっと、冒険者の方ですか?」


「いんや、ワシは助っ人じゃ」


「助っ人? えーっと、兵士ですか?」


「ワシは冒険者でも兵士でもない。助っ人に来た番長という者じゃ」


 なんじゃ? なぜそんな不思議な顔をしておる。

 

「その人は大丈夫だ。好きなだけ食わせてやってくれ」


「アズベルさん、分かりました。では、えーっとバンチョウさん? どうぞ」


 大きめの木の皿にごった煮クリームシチューがよそわれ、茶色で硬そうなパンが数切れ渡された。

 

「うむ、ありがとう。久しぶりじゃなアズベルよ」


 ごった煮クリームシチューを受け取り振り返ると、アズベルが少し戸惑った顔をしておった。

 そうじゃな、何か聞かれたら答えるくらいはしようかの。


「お、おう久しぶり。調子はどうだ」


 ぎこちなく片手を上げて、アズベルもごった煮クリーム(ryを受け取った。

 木製の長テーブルに置いて丸太イスに座ると、アズベルはワシの正面に座る。

 

「いただきます」


 手を合わせてスプーンでごった煮くりしちゅを口に入れる。

 うむ! 美味いのう!

 しかしこのパンは硬い! ごった煮く・しにつけないと食えたもんじゃないわい。

 

「な、なあバンチョウ、今までどこに居たんだ?」


 いまだ食事に手をつけていないアズベルが、スプーンだけを手にして目を合わせないまま聞いてきた。


「今までか、寝る前まではドラゴン達と森の近くで戦っておったな」


「やっぱりルリ子なのか!? ユグドラもそうだけどどうなってんだ!?」


 今度は身を乗り出して聞いてきたわい。

 本当は聞きたい事が沢山あるんじゃろうの~。


「正直なところ、ワシにもよくわからん。ユグドラやルリ子と入れ替わるのも、最初は知らなかったんじゃ」


「最初はって、生まれた時はどうだったんだ?」


「ワシはのうアズベル、気が付いたら草原に寝ておったのじゃ」


 頭にハテナが乱立しておるわい、がっはっは、まぁワシも言ってて意味わからんがな!

 いくら異世界に転生したいと願ったとはいえ、なんの説明も無しに放り出されたからの~、システムや世界になれるのに苦労したわい。


 ただちぃっとばかし言葉は濁しておかねばならんのう。


「草原に寝ておった時はユグドラじゃったが、なんでそんな所に居るのかなんて知らんし、それより前の事は覚えとらん」


 日本から来たなんて言ってもハテナが増えるだけじゃ。

 

「戦っておる内にルリ子と交代できることが分かり、人目に付くのはマズイと思って隠れて交代しとったんじゃ」


3人・・は同じ人間なんだろ? 混乱したりしないのか?」


「同じ人間では無いのじゃ。記憶は共有しておるが、全くの別人じゃな。例えばアセリアじゃが、ユグドラの嫁ではあるがワシの嫁ではない。妹の様な感じじゃ。ルリ子も同じ感じじゃな」


「そうなのか? じゃあユグドラに嫌な事する奴がいたとして、ルリ子になったら怒りに任せて仕返しするとかないのか?」


「ないのぅ。それはユグドラが対処する事であって、ワシやルリ子が手を出す事ではない。まあなんじゃ、アズベルの仲間が賭けに負けて金を巻き上げられたとしよう、お主は仕返しをしに行くか?」


「え? いや『アホか』で終わると思う」


「うむ、見て知っているが、何もせんじゃろ。それと同じじゃな。今回の様に街を護るという共通の目的があれば別じゃが、そうでなければ何もせぬ。最近じゃとユグドラの命を狙ったエリーナが現れたら、ワシやルリ子でも戦う」


「そーなのか……じゃあ1人に話したら後の2人に話す手間が省ける、程度の感じで良いのか?」


「うむ、その程度じゃな」


 おっと、クリームシチューごった煮が冷めてしまうわい、早くいただこうかの。

 パンをごった煮につけて食べると硬いパンも結構いけるのう。

 アズベルも食べ始めた。

 それなりに不安は取り除けた様じゃな。


 ワシはお替り3杯、アズベルは2杯して食事を終えた。


 森の方を見て軽く背伸びをした。

 そろそろ来る頃かのう。

 モンスター共が休みなしで走ってきたら、今は森の中か森を抜け始める頃じゃ。


 ラッパの音がけたたましく鳴り響く。


「森の外周に大量のモンスターを確認! それぞれの配置につけ!」


 丁度現れおったか!

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