34.マグノリアはレベルアップした!
「えっ? えっ、えっ?」
陛下のそのお言葉に、サバス様は
事情を知っている会場の人々は「やっぱり知らなかったのか」とばかりに、サバス様をあきれたように見つめている。
「どっ、どういうことです、陛下。ホルスト家は伯爵家、どう考えても、わが侯爵家のほうが家格が上のはずです!」
「教科書どころか、絵本にすらホルスト家の話が載っておるのに、なぜ上位貴族のそなたが知らぬのだ? ……いや、光の精霊王のシダース様のことを知らぬそなたなら、しかたがないのかもしれぬが」
「へっ、陛下! 陛下はまたしても僕を侮辱されるのですか!?」
侮辱もなにも、この国の常識を知らないことじたいが普通ありえないことだからね? 平民の子供でも知っているようなことを知らないサバス様のほうがおかしいから。
「この国において、ホルスト家はただの伯爵家ではない。他国の例で言うならば、ホルスト家は辺境伯に該当する」
陛下がそうおっしゃった途端、なぜかサバス様は嬉々とした顔になった。
「辺境伯! それではやはり、田舎貴族ではありませんか! 生意気なマグノリアにはぴったりだな!」
はあ……? 辺境伯が田舎貴族って、サバス様、仮にも上位貴族なのに、常識なさすぎるだろ。
そして案の定、傍聴席の人々からは、あきれたようなため息がこぼされる。
「本当に、そなたはなにを言っておるのだ? 辺境伯は国防の要、国によっては王家につぐ権力を持つ有力貴族であるぞ」
本当にと思わず強調してしまうほど、陛下は驚かれたんだろうな。まさか侯爵家の子息が辺境伯の重要性を知らないとは思わないだろう。
「えっ、王家につぐ地位? そんな馬鹿な!」
一人で騒ぐサバス様に、会場中の生温い視線が送られる。そんな馬鹿なもなにも、馬鹿なのはあんただよ。
「第一、ホルスト家は王家とともに建国を成し遂げた家、そのような功績を持つ家の家格が低いわけがない」
「えっ、ともに建国を成し遂げた? マグノリアの家は、ぽっと出の成金ではなかったのですか?」
サバス様の考えだと、金持ってる
うちの領地は広大だし、世界的な観光地でもあるから、お金持ってても全然不思議じゃないぞ。
「よもやそなた、ぽっと出の貴族がホルスト姓を名乗っていると思っていたのか?」
驚いたような表情で、陛下がサバス様に尋ねられた。すると、案の定サバス様が頷いた。
「本来のホルスト家は、血筋が途絶えたのではないのですか? 王家とともに建国に導いたはずの家が、侯爵家よりも低い爵位のわけがありません!」
あー……、サバス様、さすがに絵本すら見たことないわけじゃなかったんだ。それならなぜサバス様がシダースさんの存在を知らなかったのか疑問だけど。
……いや、あれかな。サバス様のような人間には、精霊は極力近寄らないようにしているし、それでその力を目にしたことがないサバス様は、シダースさんのことをおとぎ話かなにかかと思ってしまったのかもしれないな。
「ぽっと出の貴族が、建国の功績を挙げたホルストの名を許されるわけもない。そんなことをすれば、
「えっ、えっ、それでは、マグノリアは……っ!?」
陛下に
うん、普通上位貴族なら、うちの事情はわかってそうなものなんだけどね。周囲に威張り散らすことしかしてなかったサバス様からしたら、自分より上位の家の存在なんか認めたくもなかったのかもしれないけれど。
「……このような者が出るから、もっと早くに
疲れたようにため息をつかれた陛下に、お父様が微笑んだ。
「申し訳ありません。先祖の考えを受け継いだ結果、お話を受けるのがだいぶ遅くなってしまいました」
陛下とお父様のやりとりを聞いた会場の人々は、「おお、それでは!」「王家の悲願がついに!」と裁判なのも忘れたように沸き立った。
あー、うん。わたしも先祖の考えに近いから、陞爵はちょっと……って思ってたんだよね。ホルスト家は他国の王家との婚姻を結んだりもしてるから、今さらかもしれないけどさ。
あ、ちなみにそれは、だいたい恋愛結婚です。一族の者に惚れた王女が押し掛け婚とかも結構多いかな。
「皆の者! 大審議の場ではあるが、ここでホルスト家の公爵位への陞爵を公表する。授位式は、のちほど日程を決めて
陛下が高らかにそう宣言されると、会場からはおお! という歓声が上がった。そしてアーヴィン様が拍手をすると、それに呼応するかのように会場中から拍手が鳴り響いた。
「ようやくホルスト家が公爵位に就かれた!」
「なんとめでたい!」
「これでもう他国の者に、『ホルスト家って家格がずば抜けて高いのに、なぜ伯爵位なんだ?』って質問に答えずにすむぞ!」
ちょっ、最後の人、めっちゃ具体的な上に、随分と切実っぽい発言だな!
……それにしても、とうとううちも公爵家かー。これからの
第一、わたしが公爵令嬢って、ほんと柄じゃない。猫かぶっているわたしより、立ち居ふるまいもしっかりとしたディアナのほうがよっぽど向いてると思うわ。
わたしがそんなことを思ってひそかにため息をついていると、シダースさんがにっこりとこちらに笑いかけてきた。
そして、おもむろに彼は
「──我、光の精霊王シダースは、
シダースさんから与えられた穏やかな祝福の光の中で、サバス様とビッチちゃんにふと目をやると、二人は呆然とした顔をしてわたしを見つめていた。
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