32.はがれる化けの皮!
「ぶっ」
「やぁだ……なにあれ」
「下品だな」
ビッチちゃん会心の変顔に、会場中から吹き出したり、失笑しているような声が聞こえてきた。
うんまあ……、これやられた時はいらっときたけれど、今こうして見ると間抜けでしかないもんね。
「なっ、なっなっ、ビッチが……っ、そんな馬鹿なっ!」
サバス様が化けの皮がはがれたビッチちゃんを見てものすごく動揺しているけど、自業自得だし、別に哀れとは思わないなあ。
「……ッ! ……ッ!」
「ビッチ・スタイン、発言を認める」
それまで怒り狂った様子で挙手し通しだったビッチちゃんが、ようやく陛下に発言を許された。
「この映像はなにかの間違いです! きっとマグノリアがでっち上げたのよ!」
「でっち上げなどではない。この映像は、王宮で貸し出した調査用の記録石で撮られたものだ。あるまましか撮れぬし、改変などできないようになっている」
この期に及んでわたしに罪をなすりつけようとするビッチちゃんに、陛下があきれたようにおっしゃった。
「……っ! なんでそんなよけいなもの貸し出すのよ!」
……あーあ、ビッチちゃん、陛下に逆ギレしてどうすんだ。多すぎて数えてないけど、ビッチちゃんの不敬、これでいくつめなんだろう。
ビッチちゃんはどうにかしてごまかそうとしたんだろうけど、陛下のおっしゃるとおり、あの記録石はごまかしがきかないからなあ。さすがにあれを見て、ビッチちゃんが被害者側だと思う人間はいないだろう。
「……ディアナ嬢にも貸し出してある。そして、この映像はその記録石で撮られたものだ」
再びシダースさんに声を封じられたビッチちゃんに陛下が冷ややかな視線を送りながら、次の画像を表示された。
すると、怒りを全面に出したビッチちゃんが
『ちょっとっ、エディル様を出しなさいよ! どこに隠してるのよ!』
『まあ、スタイン嬢。あなた
『あんたみたいな女、これで十分よ! 話をそらそうったって、そうはいかないわよ。とっととエディル様を出しなさいよ!!』
当然の対応をしているだけのディアナに、ビッチちゃんは鬼気迫る表情で噛みついた。
うわぁ、ビッチちゃんの身分からすると、ディアナの侍女クラスでしかないのに、マジで無礼すぎ。
ディアナは優しいから、スタイン男爵の土下座に免じて見逃してやっているっていうのに、ビッチちゃん、そこんとこ全然分かってない。
『別に隠していないわよ。エディル様は魔術に秀でているから、ここではない魔法学園に通っているだけよ』
『えっ、じゃあ、もしかして王太子様もそこに!?』
『……ええ』
ビッチちゃんの問いに少しだけ間があいてディアナが言った。
アーヴィン様は従兄でもあるし、彼の身辺にビッチちゃんみたいな無礼な子を近寄らせるのを警戒したんだろうな。ディアナが答えたくないのも分かる。
……でもまあ、アーヴィン様が魔法学園に通っているのはわりと有名なことだから、今教えなくてもいつか知ると思って教えたんだろうけど。
それに、彼の周りにビッチちゃんが現れても、周囲の人間が近づけさせないだろうし、いざとなったらアーヴィン様は足止めの魔法が使えるから、彼女の魔の手から逃げることもできるしね。
こう考えると、まるでビッチちゃんが悪い魔女で、アーヴィン様がそれから逃げるお姫様に思えてくるな。肉食なビッチちゃん怖い。
『なんだ、そんなことならもっと早く教えなさいよ。まったく役立たずなんだから!』
『あなた、まさか殿下にまで言い寄る気なの? 不敬すぎるわ。あなたの身分を考えなさい』
ディアナがそう言うと、ビッチちゃんは馬鹿にしたような笑みを浮かべた。ぐぬぬ、ディアナに対してなんたる無礼!
『なによ、エディル様を盗られそうだから
『エディル様のことは今は関係ないわ。王太子殿下に無礼は許されないわよ。あなたのマナーのなってなさから言えば、下手するとあなたの一族郎党の首が飛ぶわよ』
あー……うん、ディアナの言うことももっともだ。実際ビッチちゃん、不敬罪も言い渡されたしねえ……。
ビッチちゃんは自業自得だけど、巻き込まれたスタイン男爵家の人たちがかわいそうすぎる。
『貧乏人の家族はともかく、わたしがそんなことになるわけないでしょ!?』
『あなたの言動でそうなると言っているのよ。なぜ元凶のあなたが無事ですむと思うのか、わたくしには不思議だわ』
『ふん、わたしにはサバス様がついているんですからね! 不敬になんてならないわよ!』
『サバス様って、サバス・パーカー様? パーカー侯爵家の?』
『そうよ!! 彼はわたしに夢中なのよ! だから、わたしはその権威を使ってエディル様にも王太子様にも近づき放題なんだもんね!』
どうだとばかりに胸を張るビッチちゃんに、ディアナからあきれたような声がこぼされた。
『……あきれた。恋人がいるのに他の方にも粉をかけるなんて、淑女のすることではないわ』
『淑女とか、そんなものクソ食らえよ! サバス様の顔面じゃ、エディル様や王太子様にとうていかなわないし、せいぜいわたしの恋の踏み台になってもらうことしかできないわ!』
あーあ、ここまで言われると、さすがにサバス様を哀れに思えてくるかな? ……うんでも、やっぱりされたこと考えたらざまぁとしか思えないや。
『……不思議なのだけれど、なぜエディル様があなたを好きになると思うの? あなた、彼の妹を侮辱しているそうじゃない。ホルスト家のご当主様とは別に、エディル様も抗議の手紙をあなたのおうちに出したって言っていたわよ』
『そんな手紙、エディル様が送るわけないでしょ! なに適当なこと言ってんのよ!』
『適当ではないわ。直接彼から聞いたのだし』
『! エディル様に会ってるの!? ディアナのくせに生意気よ!!』
ビッチちゃん、○ャイアンかよ。それにしても、男爵家の娘が筆頭侯爵家の令嬢に生意気って、ツッコミどころがありすぎる。
でもお兄様の手紙って、大半がディアナを侮辱したことによる抗議で、わたしはそのついでだろうな。いや、ついでだろうとありがたいと思っているけどさ。
『わたくしが生意気かどうかは置いておくけれど、エディル様は家族思いな方よ。そんな彼が、妹を侮辱されて抗議するのは当然だわ。あなただって、ご家族を貶されたら怒るでしょう?』
『えっ? わたしは抗議なんてしないわよ? あんな貧乏でみじめったらしい家、贅沢もできないし、権力はないしで、全然いいことないじゃない。わたしが気にする価値もないわ。なんだったら、あんたと交換してやってもいいわよ?』
うわーっ、なんだこの言いぐさ!
わたしがスタイン男爵の立場だったらこれは泣く。ビッチちゃん、ひどすぎるだろ!
『なんなの、あなた。ご家族に対してそんな言葉はないでしょう?』
ディアナも不快に思ったらしく、その声が低くなる。
『なによ、うだつがあがらないのは事実じゃない! ちやほやされる身分のあんたと違って、こっちは苦労してんのよ!? えらそうな口きいてるんじゃないわよ!』
殊勝? なにそれおいしいの? なビッチちゃんが苦労しているとはとうてい思えないけどなー……。してるのは周りの人間だと思う。
『あなた、さっきから何様なの? 思い上がるのもいい加減にしなさい。でないと、今に身を滅ぼすわよ。わたくしは、あなた自身がそうなるのは別にかまわないけれど、巻き込まれるご家族がお気の毒だわ』
『なによ! それで脅したつもり!?』
『脅しではなく、忠告よ』
『へぇー、それはどうもぉ! こっちもサバス様にあんたにいじめられたって言っておくからね!』
『サバス様の家よりも、わたくしの家のほうが家格は上よ。その脅しは効かないわ』
『! えらぶってんじゃないわよ! それでもやりようはあるし、絶対あんたに恥をかかせてやるからね! 今に見てなさいよ!!』
『……もう好きになさい』
ほとほとあきれ果てたというような感じのディアナを残して、ビッチちゃんは足音も荒くそこから去っていった。
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