婚約破棄された転生令嬢はレベルアップする
舘野寧依
1.やらかしちゃったね!
──わたしはマグノリア・ホルスト。
前世はどこにでもいる普通のOLだったけど、気がついたら異世界に転生してました。
どこのウェブ小説だよと最初は笑ってしまったけれど、今の家は裕福だし、家族も優しい。おまけにわたしは一般的に見てもかなりの美少女で、能力的にもハイスペックだった。
やったー、今世はイージーモードだね!
……なんて、単純に喜んでいたかわいらしい時期もありました。
* * *
「マグノリア! 貴様、よくも僕の前に姿を現せたな!」
王宮でのパーティに招待されたわたしが家族とともに歓談していたら、パーカー侯爵家の馬鹿……もとい、サバス様がわたしを指差して怒鳴ってきた。相変わらず態度悪いなあ。
そのサバス様の後ろでは、ショッキングピンクの髪のビッチちゃんが、ニヤニヤしながらこちらを
毎度思うんだけど、その髪色、よく我慢できるね。見てると目が痛いよ。わたしがこんな髪色になったら、速攻で染めるけどなあ。
……あ、ビッチちゃんて、あだ名で呼んでるわけじゃなくて、彼女の本名なのであしからず。
「まあ、サバス様ごきげんよう。人を指差すのは感心しませんね。あと、王太子様の生誕パーティなのですから、場を壊すような大声は控えたほうがいいと思います」
家族がいやーな顔をしてサバス様を見やっている中でわたしが注意すると、彼は真っ赤な顔をして怒鳴ってきた。
「恐ろしい罪を犯していながら、僕を侮辱するとは! なんて忌々しい女だ!!」
「その罪というのが分かりませんけど、王家主催のパーティで騒ぎを起こすのはよろしくないと思いますが」
「ふん! しらを切るつもりか! しかし、貴様の言うとおりになどするつもりはないぞ!」
「いえ、ですから……」
わたしは大半国のためだけど、ちょっとばかりはあなたのためを思って言ったんだけどね。臣下が国賓も招いた王家主催のパーティで騒ぎを起こすって馬鹿なの?
会場中がしらーっとしてサバス様を見ているのに、なにを誤解したのか、優越感もあらわに彼は宣言した。
「マグノリア・ホルスト、貴様との婚約を破棄する!!」
「……まあ、なぜですか?」
ドヤ顔のアホにいろいろと突っ込みたいのはやまやまだけど、お約束として一応聞いてみる。よりにもよってこんなところでやらかした馬鹿が、婚約者でもないビッチちゃんの腰を抱いているから、だいたいの理由は会場にいる人たちも分かっているだろうけどね。
「しらじらしくもよく言えたものだ! 貴様は身分をかさに着てこのビッチ・スタイン男爵令嬢をいじめただろう! 政略とはいえ、そんな女を妻になどとてもできない!」
「わたしがいじめだなんてするわけもないです。そんな必要性もないですし」
「なにを言う! 僕がビッチと恋仲なのに嫉妬してビッチを無視したり、教科書を隠したりしただろう! 愛するビッチにそんなことをするとは、とうてい許せない! 殺してやる!!」
……うわあ、やっちゃったね。
王家主催のパーティで殺害予告とか、どんなお
「──君はいったいなにをしているのかな?」
熱くなるサバス様と反するように、冷ややかな言葉がその場に落ちた。この国の第一王子にして、このパーティの主役、アーヴィン王太子殿下のご登場である。
けれど、お花畑たちはこちらが思う以上に馬鹿だったようで、途端に嬉々とした顔になった。
「王太子殿下! 実は今、この女狐めに正義の鉄槌を与えているところなのです! どうか、王太子様のお力でこの女に罰を加えてやってください!」
「王太子様ぁ! わたし、マグノリアにいじめられて! ビッチ、とっても怖かったですぅっ!!」
ありえない二人の発言に、会場中の空気が凍りつく。そして、こんな場面でも王太子様に媚びを売るのを忘れないビッチちゃん、ある意味すごすぎる。
「……ほう、国賓を招いた王家主催のパーティを私物化できるほど君はえらいのか?」
「え……っ、いや、私物化なんて、そんな……っ」
王太子様に絶対零度の瞳で見つめられ、途端にしどろもどろになるサバス様だけど、さっきまでの勢いはどうしたんだろう。
……まあ、身分では王太子様にかなわないから、そうならざるを得なかったのかもしれないけど、それならはじめから騒ぎを起こさなきゃいいのに。
「このように騒ぎ立てるのは、立派な私物化だろう。……それに、聞いていれば不貞を行っていながら、マグノリア・ホルスト伯爵令嬢を責め立てている様子。恥を知るがいい」
「い、いえ、しかし、ビッチとは真実の愛で結ばれているのです! ですから、ビッチをいじめたこの女には制裁が必要なのです!」
この期に及んで言い訳するサバス様に、いよいよ王太子様の目がさげすんだものになっていく。
……注意受けたら、そこで引いておけばいいのに馬鹿だなあ。
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