第33話 制圧
「……これで終いか?」
ガンっ!
持っていた椅子をクエリーシェルが下に叩きつける。すると、それでハッと我に返ったらしい隊長が、一目散に逃げ出した。
「おや、逃げましたね」
「ケリー様」
「詰めが甘い!」
その辺にあった椅子をまた持ち上げると、そのままブンっと隊長に投げつけるクエリーシェル。そして、見事に彼の背に当たるとそのまま隊長は転び、蹲ったまま動かなくなった。
「以上か?」
「恐らく、もういないかと」
「そうか」
(これって、確実にさっきの怒りをぶつけているわよね……?)
未だに苛立った様子のクエリーシェル。興奮した様子はないが、落ち着いて見えるからこそなおのこと怖かった。
というか、まさかこんなに呆気なく倒せるとは思わず、私は構えていた連弩を大人しくしまっておく。
見回しても帝国兵達は未だ動かずのびたままなので、とりあえず紐で腕を縛り上げておき、シオン達に引き渡すためにそのまま転がしておいた。
「ケリー様、さっきのこと、怒ってます?」
「そう見えるのならそうなんだろうな」
「……ごめんなさい」
「別に謝って欲しいわけではないが、あまり自分を雑に扱うでない」
身体を抱き寄せられて背を撫でられる。そのあと頭を優しく撫でられて、こうして私のことを大事にしてくれることが嬉しかった。
そもそも怒っているのも、嫉妬という感情もあるだろうが、それ以上に私を想ってのことだと思うとあの選択をしてしまった自分が申し訳なくなる。
「……はい」
「まぁ、そのことについてはあとで詳しく話すが、とりあえず外の部隊を引き入れたほうがいいだろう。ここは私が見張っているから、呼んでくるといい」
「わかりました。あ、念のためギルデルも縛っておきます?」
「あぁ、それに関しては私がやろう」
「縛るなら、リーシェさんにお願いしたいのですが」
「なに、リーシェの手を煩わせるまでもないだろう?」
「お手柔らかにお願いします」
クエリーシェルの黒い笑みが恐い。ギルデルもクエリーシェルの不穏な様子に気づいているのだろう、ニコニコしつつもちょっと表情が引き攣っているような気がした。
「では、行ってきます」
「あぁ、気をつけて」
「はい」
私はあえて気づかないフリをしながら、クエリーシェルにあとを任せて迷宮を抜けてシオンの元へと向かった。
◇
「[シオン、お疲れさま!]」
「[おぅ!って、どっから湧いて出た!?ずっと探してたんだぞ]」
私達が地下にいる間に制圧を完了していたようで、どこもかしこもブライエ国の兵が闊歩していて、帝国とモットー国の兵の残党探しをしているようだった。
そのうちの1人にシオンの元へ案内してもらうと、彼は私達を相当探し回ったのか、はたまた戦闘が厳しかったのか、汗だくになっていた。
「[ごめんなさい、色々手間取ってたら遅くなっちゃって]」
「[それで?ギルデルは見つかったのか?]」
「[えぇ。ついでに帝国軍のここの拠点の隊長も確保してある]」
「[そうか、それにしても本部拠点はどこにあるんだ?大体見て回ったが、それらしいものは見つけられなかったぞ]」
「[それが、拠点は隠してあって、攻略するまでに時間がかかったのよ。とにかく案内するわ]」
「[あぁ、頼む]」
「[進捗はどう?]」
「[わりとすんなり制圧できた、と言ったところだろうか。こちらも数人負傷者は出たがそこまででもない]」
「[そう、それはよかった]」
みんなが無事と聞いて安堵する。やはり強国ブライエといえども、やはり戦争となると万が一ということが起こり得るから恐ろしい。
(シグバール国王も無事だといいけど)
同じような地下迷宮があるようなら手こずってるかもしれない、とそう思っている時だった。
「[そういえば、ここまで来るときに異臭騒ぎと謎に倒れて戦闘不能な兵が多かったんだが、お前達は何もなかったか?]」
思わぬ質問にギク、と身体が強張る。その様子に眉を顰めるシオン。
「[何だ、知っているのか?]」
「[……い、いえ、何も〜?]」
「[怪しい……]」
「[と、とにかく、行くわよ!あ、気をつけないと怪我したり最悪死んだりするかもだから気をつけて着いてきてね]」
「[はぁ!?最悪死ぬってどういうことだよ!]」
とりあえず話を誤魔化して、他の兵に残務処理を命じたシオンを連れて行く。
(そういえば、ケリー様とギルデルを2人っきりにさせてしまったけど、大丈夫かしら)
あんまり大丈夫ではない気もしながらも、とりあえず何もないことを祈って拠点へと戻るのだった。
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