第25話 信用ならない

「[犠牲者は?]」

「[おかげさまで0だ。帝国兵達もほぼ全員生け捕りにできた]」

「[それは凄い。さすがね]」

「[ふん、あまりおれを見くびるなよ?]」


シオンの言う通りこちらはほぼ無傷だったらしいことに安堵する。囮作戦成功だと、密かに喜んでいると、ガッと大きな手に頭が掴まれた。


「ひっ!」

「……リーシェ……っ」


明らかに苛立っている様子のクエリーシェルに、てへっと笑って見せる。すると、手の力が強まって頭が握り潰されそうになった。


「痛い痛い痛い!」

「無茶をするなとあれほど言っただろう!!」

「そうですけど、ちゃんと気をつけてましたし……」

「気をつけてたっていつ何があるかわからないのが戦場なのだぞ!?」

「それは……そうですけど」


役に立ちたかったのだと項垂れると、頭から手を離される。


「気持ちはわかるが、お願いだからすぐに前に行こうとしないでくれ。いいな?私の寿命が縮む」

「それは……困りますね。ケリー様には長生きしてもらわねば」

「というのなら、もっと行動を慎重にしてくれ」

「善処します」

「はぁ……」


(あ、信用されてない)


思いきり溜め息を目の前でつかれる。まぁ、実際日頃の行いが悪すぎるので、仕方ないのだが。


でも、今回は比較的安全なときにしか出ないように気をつけているつもりだ。これで死んだら姉様だけでなく師匠にも怒られる気がする。というか下手したら天国から追い出されそう。


(ここにステラの居場所なんてありませーん、とか言いそうだな。姉様)


姉様のことを思い出していると、事後処理を終えたらしいシオンが戻ってきた。案外テキパキと片付いたからか、あまり疲労は出てないようだった。


「[お疲れさま。どうだった?]」

「[お疲れ。とりあえずは一通り武器も取り上げて捕縛してるから、大丈夫だろ。お前みたいなのが紛れ込んでなければ、の話だが]」

「[大丈夫じゃない?帝国兵でそういう反骨心ある人とかいたらこんなとこに来てないでしょ]」

「[そりゃ言えてるが。酷い物言いだな]」

「[まぁ、事実でしょ?そもそも喧嘩ふっかけてきたのシオンじゃない]」

「[だが、お前だったら絶対捕まっても逃げようとするだろ?]」

「[そりゃ、まぁ……逃げるでしょ]」


ほら見ろ、とばかりに呆れた表情をされる。実際にサハリで脱走を謀ったこともあるわけだし、それに関しては否定できなかった。


「[で、どうするの?この人達]」

「[距離近いからそのまま国に連れて行くわ。お前達の部隊から人数もらっていくぞ]」

「[それはいいんだけど。……情報は何か吐いた?]」

「[いや。こいつらはここで足止めしろと言われただけらしい。ま、前線には下っ端が出るもんだし、元々期待してないからそんなもんだろ。とりあえず、このままジャンスに向かうぞ]」

「[わかった。あ、途中の森で不意打ち来るかもしれないからその辺気をつけて]」

「[あぁ、そっちは警戒しとく]」


話している間に補給を済ませていたクエリーシェルが戻ってくる。入れ替わるようにシオンは部隊の指揮をしに行ってしまった。


「補給は終わりました?」

「あぁ、水も確保して武具も相手方のを拝借した」

「そうですか、ではもう出られそうですかね?」

「そうだな。今後の予定は?」


先程シオンと話した内容をそのまま伝える。クエリーシェルは少々難しい顔をしたあと、グイッと抱きしめられた。


「ケリー様?」

「次はいよいよジャンスに行くわけだが……私のそばから離れるなよ?」

「えぇ、わかってます」


ジャンスでは道案内をする予定なので、さすがに気を引き締めなければならない。前線には出ないという約束ではあるが、今回も戦争ではここが私にとって一番の正念場だと言っても過言ではなかった。


そもそも指名手配の身、下手に拘束などされたらどうなるかわかりきっていることなので、その辺りも含めて慎重にならざるを得ない。


「いざとなったら私を盾にして逃げるくらいの気概でいろ」

「わかりました」

「リーシェのわかったほど信用ならない言葉はないな」

「酷い!」

「日頃の行いが悪すぎるからな」


見透かされて、言葉に詰まる。


(そんなだって、ケリー様置いて逃げられるわけないじゃない)


思いつつも言ったらまた面倒になることはわかっているのでそれ以上は何も言わなかった。


「[こーら、そこのバカップル!行くぞ!!]」

「[はーい!]」


シオンに言われてお互い馬に乗る。


(次はいよいよジャンス)


グッと手綱を握る力が強くなる。逸る気持ちを抑えながら、「行くぞ」というクエリーシェルの後を追いかけるのだった。

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