第62話 指名手配犯
(最後の最後に見つかってしまうなんて。あと国境までもうちょっとだと言うのに……!)
焦りで手綱を持つ手に力が入る。
先にヒューベルト達に行ってもらい、あとから私が追従する形だが、彼らが乗っているのは訓練されて砂上を走り慣れた馬なのだろう。だんだんと距離が縮まりつつあることに焦りで胸が早鐘を打つ。
(何か手は……)
さすがにここは砂漠地帯、こんなだだっ広い場所で何かを燃やしても意味はないだろうし、
となると、別の手段で少しでも追手を遅延させることを考えなくてはならないが、馬上で進行方向とは逆に向かってスリングショットするのも難しいし、連弩もこの距離じゃ意味をなさない。
このペースだと時期に追いつかれてしまうだろう。万が一捕まってしまった場合、私は指名手配の内容的に今ここで殺される可能性が低いが、ヒューベルトとメリッサはこの場で殺されない保証がどこにもなかった。
(今、私にできることは何かないの……!?)
そのとき、腕につけたクエリーシェルからもらったブレスレットが目に入る。それは太陽の光を浴びて、キラキラと輝いていた。
(これだわ!)
太陽にかざして光を反射させると、彼らの馬に向かって当てていく。すると、光を当てた馬は次々に目が眩んで倒れていった。
前方の馬が転ぶことにより乗り手である帝国兵達も落馬し、連鎖するようにいくつか足止めすることはできた。
「よし!!」
だが、喜んでもいられなかった。相手もまさかこのような反撃をしてくるとは思わなかったのだろう、振り向くとキリキリとこちらに向かって弓を引き絞っているのが見えた。
「まずい……っ!!」
ヒュン、ヒュン、といくつも矢が飛んでくる。それを馬を操りながら避けるも、砂上の上でなかなかコントロールも難しく、馬から落ちないように避けるのは非常に大変だった。
さらにまっすぐ走っていなかったせいで距離が縮まってきたせいか、矢の数がだんだんと増えてくる。そして、
ヒィヒィィィィィン!!!
馬が一際大きな声を上げると、そのまま背を大きく反らす。
「きゃあああああ!!」
私は勢いよく落馬し、身体が砂地に叩きつけられる。肩から落ちたせいか、身体がとても痛い。
頭も打ったせいで頭がふらふらとして視界がぼんやりしながら馬を見ると、1本の矢が脚の付け根に深々と刺さっているのが見えた。
「〈リーシェさん!〉」
「〈戻ってこないで!とにかく行って!!ここは私がどうにかするから!!〉」
「〈で、ですが!〉」
「〈いいから!!早く!!!〉」
私を心配して戻ってこようとするヒューベルトを全力で止める。私だけなら最悪命は助かる。いや、例え助からなかったとしても、全員が死ぬという最悪な事態は避けることができる。
(最期まで足掻いてみせる。こんなとこで死んでたまるもんですか!!)
クエリーシェルからもらったブレスレットに触れる。太陽の光でほんのりと熱くなっていたそれは、生きるための力を与え、生きようとする心を鼓舞してくれた。
「{とうとう追い詰めたぞ、小娘!!}」
「{兵長!この髪の色と見た目って、もしやこの小娘、指名手配の者では!?}」
「{何ぃ!?確かに言われてみれば。くくく、まさかたまたま追っていた娘が指名手配犯とはいい金稼ぎになる。生捕りで捕まえろ!!}」
「{はっ!!}」
(とうとうバレたということね。それならそれで、あっちも制限ができたと思えば……ヤレる!!)
予め用意しておいた小石をセットすると、ぶんぶんとスリングを振り回す。
(敵の数が多すぎる……っ!けど、足止めさえすれば何か突破口ができるかも……っ)
びゅん、びゅん、びゅん!
馬ではなく、乗っている兵に向かって当てると、次々に落馬していく兵達。全然数は減っていないが、このまま上手く落馬させていったら、その馬を奪取してまた逃げられるかもしれない。
「{こんの、小娘……っ!いい気になりおって!!}」
兵長らしき者が剣を構える。スリングを放つもさすが指揮官、上手く避けられ落馬することなくこちらに向かってきた。
「{兵長!仕留めてはダメですよ!!}」
「{わかっている!だが、多少傷つけたくらいでどうってことないだろう!}」
(これは、致命傷は負えないわね)
さすがの敵も私がこうも反撃すると思っていなかったようだ。だからこそ、私をただ生捕りにはできそうにはなさそうなので、多少傷つけても……最悪、半殺し辺りにしても問題なうだろうと方向転換をしたようだ。
チラッと、ヒューベルト達のほうを見ると、どんどんと小さくなっているのが見えてホッとする。
それと同時に何か蜃気楼なのか、ヒューベルトの行く先に薄らと黒い影がたくさん見えたような気がした。
(熱中症かしら。あまり時間をかけていられないわね)
周りをぐるっと囲まれる。そして私は覚悟を決め、やつらを睨みつけるように見据えた。
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