第51話 帝国嫌いの村
「〈すみません、ここはヒュセイン村でしょうか?よろしければこちらで一晩宿をお借りしたいのですが……〉」
「〈おやおや、旅のお方が来るなんて珍しいねぇ。さぁ、どうぞどうぞ。何もない村ですけど……。あぁ、村長!こちら旅のお方だそうで……〉」
帝国嫌いが集まったと言われているヒュセイン村にやってきたのだが、先程の街とは一転して小さな村だからかセキュリティも甘く、難なく入ることができた。
しかも、何やら歓待ムードで村長のところに案内してもらえる。
正直ここまでスムーズに行くとは思わず、多少訝しげながらもラクダを預け、案内されるままに村長のところへと向かった。
「〈おや、旅のお方ですか。こんな辺鄙な村にわざわざお越しいただきありがとうございます〉」
「〈こちらこそ、流浪の身の上だというのに歓迎、感謝致します〉」
「〈いえいえ、なかなか普段あまり人も寄りつかぬような小さな村ですが、ぜひともごゆっくりなさってください〉」
(どういう身の上かもわからない者に対して随分と低姿勢ね。運営が
素性を知らぬ相手だというのに、村長からも歓迎されることに多少なりとも違和感を持つ。
身分を明かしているならまだしも、野宿もして多少薄汚れている身元もわからない流浪民を歓待するというのはどういうことなのだろうか。
歓迎してくれるのはありがたいが、あまりに不用心でお人好しが過ぎないか、と多少警戒心を強めた。
「〈お宿をお探しとのことでしたら、ぜひとも我が家に〉」
「〈あぁ、彼女はこの村一番の料理の腕前ですから、ぜひともご堪能ください〉」
「〈ありがとうございます。では、お言葉に甘えまして〉」
「〈ささ、こちらへどうぞ。案内致します〉」
村の女性は恭しくお辞儀をすると、そのまま歩き出す。そしてそのあとを私達は続いた。
「〈ここは、あまり人が来ないのですか?〉」
「〈えぇ、まぁ。帝国嫌いの人々で集まった村でして、敬遠されてる方が多いのですよ〉」
「〈帝国嫌い、ですか?〉」
「〈えぇ。噂、ご存知ないですか?〉」
ヒューベルトが口を開こうとするのをそっとヒューベルトの裾をひく。そして、ここはあえて知らないフリをしておこうと、目配せすると、私の意図を察してくれたらしいヒューベルトが静かに頷いた。
「〈我々は芸を売る旅人にて。そう言った話題には疎く……〉」
「〈そうでしたか。あぁ、家はここです〉」
そう言って案内されたのはとても大きなお屋敷だった。村長の家ほどではないが、ここも十分大きく、失礼ながらそこまで身分も高そうな女性ではなさそうなのに、随分と立派な家に住んでいるのだなぁと思った。
「〈この部屋をお使いください〉」
案内された部屋は2階にあるとても大きな客間だった。ベッドや机が簡易的に置かれているとはいえ、広さはじゅうぶんである。……客間にしてはだいぶも大きい気もするが。
「〈こんな立派な部屋でよろしいんでしょうか?〉」
「〈えぇ、えぇ。せっかくの客間なのですもの、使わないと、ねぇ?〉」
意味ありげに微笑む女性の意図がわからず、とりあえず同調するように頷いておいた。
「〈お心遣い、どうもありがとうございます〉」
「〈いえいえ。さぁさぁ、お疲れでしょう。食事ができましたら呼びますから、ぜひともごゆるりとおくつろぎください〉」
そう言うと、女性は部屋をあとにする。扉が閉まった途端、私は「はぁ」と小さく息を吐いた。
「〈リーシェ、大丈夫?〉」
メリッサが気遣って私を支えるように立ってくれる。メリッサもきっと疲れているというのに、その優しさが嬉しかった。
「〈うん、大丈夫よ。ありがとう。ちょっと気が抜けただけ。……ミリーは?疲れたんじゃない?大丈夫?〉」
「〈あたしは大丈夫、うん。大丈夫だと思う〉」
曖昧なことを言うメリッサ。きっと心配させないように強がっているのだろう。あまり弱味を見せないところがあるぶん、気をつけてあげねばならない。
「〈本当?とりあえずまだ休んでいいみたいだし、休んでおいて。寝ててもいいから〉」
「〈うん、わかった。じゃあ、ちょっとだけ寝てようかな。あ、荷物はどうする?〉」
「〈念のため荷解きはしないでそのままにそておいてちょうだい〉」
「〈うん、わかった〉」
メリッサはそう言うと、荷物はそのままに部屋のベッドがあるほうに向かって転がる。素直に言うことを聞いた辺り、やはり慣れない旅で疲労があるのだろうと思った。
私は私で部屋を見ていく。広さのわりには調度品は最低限。本当に用途としては簡易の客間と言ったところだろう。
でも、この家の大きさにしてはやけに場所を取っているし、不思議な造りをしている気がする。
(まるで、この客間ありきで家を建てたような……)
そう考えたところで頭を振る。何にも疑心暗鬼になってストレスを溜め込んでいたことに気づいて、再び「はぁ」と溜め息をついた。
ここのところ心身共にあまり休めていない。正直気丈に振る舞っているつもりだが、やはり敵地というのは自分が思っている以上に自身への負荷が大きかった。
(あのギルデルの言葉も気になるし)
わざと私に言っていたことだけはわかる。それぞれただの世間話のように軽い口調で話していたが、あれはきっと何かの助言だ。
だが、その言葉によってさらに余計に考えすぎて、頭を抱えているのもまた事実だった。
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