第37話 情報収集

「〈待たれよ、ここに何の用だ?〉」

「〈我々は旅の一座でして、ここへは物資を購入しにきましたが……随分と警備が固いのですね〉」


(いきなり脱線したーーーーー!!?)


まさかヒューベルトが余計なことを言うとは思わず、不意打ちだったために心臓がバクバクと早鐘を打つ。


平静に平静に、と自分に言い聞かせつつそっと覗くように気持ち少し顔を上げれば、たまにこちらをちらちらとは見ているものの、門兵はヒューベルトの方を主に注視していた。


「〈あー……普段はここまでじゃないんだが、凶悪な犯罪者が脱走したそうで警備が強化されているんだ〉」

「〈そうですか、それは恐いですね〉」

「〈時ににーちゃん、その腕、どうしたんだい?〉」


ギクっ、と自分のことではないのに、胸が一際大きく鼓動を打つ。先日の一件で同行者情報も出回っているのだろうか、そうだとしたら非常に厄介だ。


正直胸が痛いくらいだが、ここは我慢だとことの成り行きを大人しく見守る。


「〈あぁ、昔事故でね。……それが何か?〉」

「〈あー、いや。ちょっと気になっただけだ。片腕がないとつらかろう?〉」

「〈そうですね。でも、慣れました〉」

「〈そうか。って悪いな、引き留めて。ようこそ、水と緑の都ジャンスへ。そうそう、逃げた手配犯っていうのは女2人らしいから、にーちゃんも気をつけろよ?下手に誘惑されて籠絡されたら大変だからな〉」

「〈ご忠告どうもありがとうございます。肝に銘じておきます〉」


では、と挨拶をすればそのまま中へと入れてくれる。一応注意してなるべく目立たぬように俯きながら歩いたが、もう興味を失ったのか衛兵はこちらを見ることなく井戸端会議を始めていた。


「急に世間話始めるからびっくりしました」

「あぁ、すみません。堂々とする、ということでしたのであえて話を振ってみました。それとせっかくですし、情報収集もしておいたほうがよいかと」

「確かに、そうですね……」


案外、肝が据わっているなぁ、と感心しつつ、確かに情報収集は大事だと気づいて、ヒューベルトの機転の良さに感服した。


「〈2人共。ここで異国語はあんまりよくない〉」

「〈は!ご、ごめんなさい。つい焦って戻ってしまってたわ、気をつける〉」

「〈す、すみません〉」


大人2人が子供に怒られるという奇妙な現象が起きてしまったが、周りを見回しても人が多いからか、こちらを気にしている様子の人はいなさそうでホッとする。


「〈とりあえず、入れはしましたけど、このあとどうしましょうか〉」

「そうね。こんなにすんなり入れるとは思ってなかったけど、とりあえず情報収集は必要なのと物資の補給ね。できれば馬をラクダに変えたいのだけど〉」

「〈ラクダ、ですか?どうしてまた……〉」

「〈この先の砂漠を越えるには馬だとちょっと難しそうだから。荷物を持ちながら慣れない砂の上は危険だわ〉」

「〈なるほど、ではそのように〉」

「〈あたしもついて行く。ステラはどうする?〉」


きっと砂漠のことを知らないだろうヒューベルトを察したメリッサ。確かにメリッサなら出身だし、ある程度見聞きしているはずだから彼女がついているなら心強い。


「〈んー、じゃあ私は私でちょっと見て回ろうかしら。何かあったらこの場所で合流、っていうのはどう?〉」


下手に3人でぞろぞろと歩いているのも変だろう。だから、あえて私は離れることにする。


と言いつつ、この街に何があるのかとか気になるのと、ゆっくり色々と見て回りたい、という好奇心もあるのが本音だが。


それからヒューベルトとメリッサはラクダと水の調達、私は日除けと食糧の調達をするように話し合う。


「〈承知しました〉」

「〈うん、わかった〉」

「〈では、またあとで〉」


そう言ってそれぞれ別れる。初めて訪れる街に心躍らせながら、私は足取り軽く探索を開始するのだった。

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