第13話 出生

「〈メリッサを?どういうこと?〉」


想定外の言葉に戸惑う。メリッサを助けるというのが具体的にどういうことなのか、理解し難かった。


「〈正確に言えば、ワシのそばにいるのが危ないのと、メリッサの命も狙われている、ということじゃ。ワシはワシで国王と確執があるのと、あの子に関しては出生に問題があってな〉」

「〈それを私に話して大丈夫なの?〉」

「〈もう今更じゃろう?そっちもそのつもりで情報開示したことくらいわかっておるわ。ワシを誰だと思ってるんじゃ〉」


さすがに私の思惑など透けて見えていたということか。だが、それでも私の言葉に乗る価値があると判断してくれたことは素直にありがたかった。


「〈ワシは現在の国王……自分の息子から目の敵にされておる。保守的すぎるとな。もっと国を豊かにするためには奮起しなければならない、とそう言われ、対立した〉」


複雑そうな表情の師匠。


「〈元々ワシは引退した身だからあまり口を挟むのも憚られたが、それがあまりにも酷くてのう。自国民よりも帝国優先。そのせいで国の力がとても衰えてしまって、格差が広がってしまい内紛が起きるようになってしまった。ワシは多くを口出しすぎたゆえに今はこうして辺境の地に住んでおる〉」

「〈そうだったの〉」


親子での対立。つい先日サハリで経験したことだ。それぞれ家庭環境が異なるゆえ、皆それぞれに問題やわだかまりがあるのだろう。


そういう意味では私は両親に一方的に不満はあったものの、実際にそこまで強いわだかまりがあったかと聞かれたらそうではなかった。


あれはただの嫉妬心だった。姉よりも私を見て欲しいというワガママ。


姉から言わせれば、そんなことはなかった。ちゃんと気遣ってくれていた、と言われて初めて気づくほど愚かなヤキモチだ。


死後に気づくというのは遅すぎたが、それでも気づけたのはよかったようにも思う。だから彼らもすれ違っているだけなのだとしたらどうにか解消したい気もするが、なかなかどうにもそう簡単にことは進まないだろう。


「〈それとメリッサだが、あの子は孫ではあるものの、王妃の子ではないんじゃ〉」

「〈それってつまり……〉」

「〈……そういうことじゃ。しかも、相手が悪くて帝国からの使者の娘の子なのじゃ〉」


妾の子、かと思いきや、さらに斜め上をいくことで目眩がする。私が絶句するのも無理はない、といった諦めの表情をする師匠。


「〈そのせいでさらに内政が混乱してな。王妃は荒れ果てて今にもメリッサを殺しかねない勢いじゃ。それに実母である帝国の使者の娘は産後すぐに亡くなってしまってのう。そちらも帝国の重役がえらい騒ぎになってしまって、メリッサの引き取り手がなくてワシが引き取って来たんじゃ〉」


メリッサが虐められる、殺される、というのが理解できる内容だった。今の話しぶりからして、唯一の肉親である父からもないがしろにされていたということだろう。


「〈そういうわけで、我々はひっそりと暮らしておるんじゃが、ワシも高齢じゃ。今後このまま生活していくのは正直厳しい。だからもしステラがブライエ国を今後目指すというのなら彼女を連れて行ってもらえないだろうか〉」

「〈メリッサをブライエ国に?〉」

「〈あぁ、シグバールならあの子を受け入れてくれるじゃろう。だから、ステラ、お願いじゃ〉」


私に深々と頭を下げる師匠。その姿はどこか弱々しく、以前会ったときの溌剌はつらつとした印象はどこにもなかった。


「〈師匠。頭を上げて。……私でよければ力になるわ。ただし、そうなるとこの国と対立することになるけど、いいの?〉」

「〈……それは、覚悟の上じゃ。ワシはこの国を、息子をどうすることもできなかった。その責任は取らねばならぬが、ワシにはどうすることもできん。かと言ってこのまま帝国にいいようにされるのも我慢ならん。だから、ステラやシグバールにこの国を託したい〉」

「〈そう。……わかった〉」


もうずっと覚悟していたのだろう。ずっと、無力な自分を嘆きながら国の行く末を憂いていたのだろう。


「〈師匠の気持ちはわかったわ。メリッサを連れていく。私もあまりここに留まっているつもりはなかったし、私も狙われている身だから。迷惑をかけないためにもなるべく早く出るつもりだけど、それでいい?〉」

「〈あぁ、大丈夫じゃ〉」

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