第11話 不安

「〈さぁ、召し上がれ〉」


身体は現金なもので、食事を目の前にすると途端にぐぅぅう、と盛大な腹の虫が鳴く。さすが3日飲まず食わずの寝たきりだったのだからいきなり食事は、とも思ったがそんなことは全然なかった。


海が近くだからだろうか、貝や魚などが多い。他にも野菜の肉詰めやスープ、リゾットのようなものまである。


「〈食べられるぶんだけ食べてくれ〉」

「〈じーちゃんのご飯は美味しいよ。スープは豆のスープでメルジメッキ・チョルバス。この貝に入ってるご飯のやつがミディエ・ドルマ。野菜の肉詰めのやつが、ビベル・ドルマス。このお米のがピラウ、こっちのお米を甘く煮たのがシュトラッチっていうデザート〉」

「〈メリッサは料理に詳しいのね〉」


ふんす、と得意げに紹介してくれるメリッサが可愛らしい。つい褒めると、急に照れたのかもじもじし始める。


「〈メリッサもこうして料理の名とか覚えたのは最近じゃろうに〉」

「〈じーちゃん、言わないで〉」


師匠に笑いながら暴露されて、先程まで得意げだったのが一転口を膨らまし始めるメリッサ。


なるほど、自分が知ったばかりの知識だったゆえ、披露したくなったのだな、とかつての自分もそういう時があったなぁ、と思い出す。


「〈ありがとう、メリッサ。とてもわかりやすかった〉」

「〈……ん〉」

「〈さて、どれから食べようかしら。メリッサのオススメは?〉」

「〈あたしのオススメはミディエ・ドルマ。ちょっとずつ食べられるし、とても美味しい〉」

「〈そう。では、それからいただこうかな〉」


幼いながらも、私の体調を気にしてくれているらしい。私が手に貝を取ると、それをジーっと見つめられる。


なんだかちょっと居た堪れなくて固まっていると、私が食べ方がわからないと判断したのか、ずずいとメリッサがこちらに身を乗り出してくる。


「〈こうやって食べるの〉」


貝をパカっと開くと、片側をスプーン代わりにして中に入っているご飯を掬う。そして、あーんとでも言うように口元に持って来られる。


ここで拒否するのもなんだか悪い気がして、言われるがまま、ぱくんと彼女に食べさせてもらった。


「〈……うん。美味しい〉」


言うと、ぱぁ、と表情を明るくさせるメリッサ。なんともわかりやすい子である。


実際、とても美味しかった。独特な味付けではあるが、癖があるわけではないので程よい塩味が食欲をそそる。


しかも、1つがとても小さいので量の調節がしやすく好きなぶんだけ食べられるのも魅力的だった。


そもそも、何かに詰める料理は色々と見てはきたが、まさか貝にまで詰めるなんて発想はなくて純粋に興味も持った。


「〈どんどん食べてね〉」

「〈ふふ、ありがとう。師匠もありがとう。とても美味しい〉」

「〈口に合って何よりじゃ。何かあればメリッサに言ってくれ。ワシはちょっくら出てくる〉」


そう言うと、師匠はまたすぐに部屋を出て行ってしまう。


「〈メリッサ。師匠はどこに行ったの?〉」

「〈……多分、病院。もう1人の状態を確認しに行ったんだと思う〉」

「〈もう1人って私と一緒にいた?〉」

「〈うん。この前とうげをこえた、って言ってたけど。でもまだらっかんしはできないんだって〉」


峠を超えたが楽観視はできない、ということは非常に危険な状態なのではないか、と胸がギュッと詰まる。


(助けてもらった私がこうして食事にありついているというのに、ヒューベルトさんは……)


「〈どうしたの?お腹痛い?〉」


私が難しい顔をしていたからか、メリッサが覗き込むように私の顔を見てくる。表情は相変わらず変わらないが、気を遣わせてしまったようで、「〈ごめんなさい、大丈夫よ〉」と強がってみせた。


「〈私も、よくお腹がキューってなるの。だからわかるよ〉」

「〈メリッサもなるの?〉」

「〈うん。我慢するとなる。でも、最近はずっとじーちゃんと一緒だから大丈夫〉」

「〈そう。それは良かった〉」


メリッサと会話することで多少は気は紛れた。私がぐじぐじとここで悩んでいてもしょうがないと気持ちを切り替え、用意された料理の数々に手を伸ばすのだった。

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