4.5章【閑話休題・マーラの物語】
マーラの物語1
ワタクシの世界は両親と侍女、ただそれだけだった。
人付き合いなどしなくても、両親から言われて通りに生きていけば旦那様も見繕ってくれるし、幸せになれると信じていた。
だから2人を見習い、特に母のように愛される存在を目指した。学などいらず、ただ旦那様のためだけに美しく、愛嬌さえあればいいのだとそう思って実行していた。
例え、それが自分に合わないと思っていても。
例え、それが苦痛だったとしても。
だけど現実は、伴侶となる見込みがありそうな方を
最初こそ両親も一緒にいるときには好意的な態度を取るというのに、いなくなった途端に手のひらを返され、冷たくされる。
それはなぜか、まだ幼いワタクシにはわからなかったが、今ならわかる。……ワタクシの父が王家の血筋であり、王の弟だからだ。
特に父は前々王妃がとてもとても可愛がっていたということもあり、ワガママ放題だったらしい。ワタクシはもちろん当時のことを知らなかったが、周りの大人達が密かに吐く悪口を聞く限り、どうやら事実のようだ。
「あそこの身内になると色々と厄介なようだ。だから、適当にその場だけ繕ってその後合わなかったと言えばいい」
それが共通認識として私達の知らぬところで広められ、ワタクシはまるで道化のように実りのないお見合いをいくつもさせられた。
けれどワタクシは、周りから何と言われようとも、これ以外の方法を知らなかった。女性が生きていく術は幸せな結婚であり、それを信じてきたし、そのように教育されてきたから。
今回がダメでも次がある。あてはいくらでもあると、両親は自分達が原因であることなど露知らず、ワタクシにそう言い続けるのだった。
「……何ですの、これ」
あるとき、侍女の忘れ物であろう本が、ワタクシの部屋の机に残っていた。学は必要ないからと本はほとんど読んだことがなかったものの、ページを開くとそこには文字がぎっしりと詰まっていた。
文字は目にしたことはあるが、教えられなかったので読むことはできない。だが、なぜかこの文字を読みたいと、ここに何て書いてあるか読みたいとそう思った。
でも、両親に聞いたところで本自体を取り上げられるのは目に見えているし、かと言って持ち主に聞いたところで雇い主である両親に報告されてしまうだろう。
では、他に誰に聞けばよいか……。
そう考えたとき、誰にも聞けないのであれば自分で調べればいいのではないか、と気づく。
(今日はお稽古などない日だし、ちょうどいいですわ)
ワタクシはこっそりと部屋を出て、あえて近道の両親の部屋前を通らない道を通りながら図書館へと向かう。
図書館には実に様々な本があった。絵がたっぷり書かれているものや、先程のように字がぎっしりと書かれているもの。
ワタクシは目についた本を手に取る。よくよく見れば子供向けの本のようだが、絵の端にいくつか書かれている文字さえもよく読めずに自分の無知さにガッカリした。
「あらあら、珍しい。マーラ様ではございませぬか」
ビクッと背筋に衝撃が走る。まさか声をかけられるとは思わず、恐る恐る振り返ると、そこには1人の老婆がいた。
「何かお探しですか?」
「あ、いえ……あの……」
上手く言葉が出てこず、もどかしい。
考えてみたら、普段は見知った人達と会話することばかりで、あまり知らぬ人と両親がいないときに会うのは初めてかもしれない。
大抵私がこうしてもごもごとまごついていると、助け舟を出してくれることが多かったが、今はその頼み綱である母もおらず、どうしようと内心パニックであった。
「マーラ様はどんな本がお好きですか?」
「え、っと……ワタクシは……」
しどろもどろになるワタクシを見て察したのか、老婆はにっこりと微笑むとワタクシの手を引いて「では、気になる本を探しましょうか」と図書館の中を案内してくれる。
これが、ワタクシとこの図書館司書でありワタクシに様々な知識を与えてくれた老婆、カルーとの出会いだった。
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