第96話 耳寄り情報

「色々と不都合な話が続いたが、朗報……いや、正確には耳寄りな情報があるよ」


耳寄りな情報、と言われて思い当たることがなくて首を傾げる。何のことだろうか、サッパリ想像がつかない。


「キミがいる国、コルジール国について調べさせてもらった」

「コルジール国がどうしたの?何かあったの?」


もしや、私やクエリーシェルがいない間に何かあったのだろうか、とよくない考えが頭をよぎる。すると、すぐさま私の様子を察したブランシェが「あー、いや」と慌てて手を振る。


「いや、言い方が悪かったね。コルジール国がどうした、という話ではなくてね。正確にはコルジール国と敵対しているマルダス国についてなのだが」

「マルダス?……その話、詳しく」


ここでマルダスの話が出てくるとは思わず、ブランシェの瞳を覗き込むように彼の話に食いつく。


マルダスについては、敵対しているコルジールでさえもあまり情報を得ていなかったので、どんな情報でも得られるものがあれば得たかった。


一応、カジェでもある程度マルダスの情報は教えてもらってはいて、取引の内容が主に日持ちする食材であることと羽毛などを服や寝具などに加工していること。また、基本的には永久凍土であり、生存に厳しい土地であるということは聞いた。


それでもやはり友好国とはいえ貿易のみをやってるだけでは別の側面を見出すのは難しかったようで、あまり収穫らしい収穫はなかったのだ。


なので、カジェとは違った情報が手に入るなら願ったり叶ったりであった。


「あぁ、マルダスはとても冷たく寒い国らしい。木々は氷つき、人間はもちろん、動植物も生きるのに厳しい土地らしい。だから基本的に食物が不足し、他国から補うことが多いそうだ。また、漁業に関してはとても盛んらしい」

「漁業……。そういうのもあって、造船整備が優れているのかしら」


以前カジェで会った、サーカスの一団を思い出す。彼らは国々を旅しているというが、昨今の技術で国から国へと旅をするというのはそれなりの造船技術が必要だ。


つまり、長旅に耐えうる技術をマルダスは得ているということである。


しかも基本サーカス団のメンバーは女性が占めていたことから察するに、メンバーの航海技術もさることながら、それだけの人数や大道具を載せられ、女性でも搬入可能な仕掛けのある立派な船が作れるという証明でもあった。


「マルダスはどうにも科学技術が進んだ国であるようでね」

「科学、技術……?」


耳慣れない言葉に思わずオウム返しする。科学は先日使用した硫酸作成での錬金術を想像するが、それに近いものだろうか。


「僕もその辺りは詳しくないのだけど、土地柄をカバーするように科学技術が発達したらしい。自動で可動できる機械の作成や錬金術なども含めて得意としているようだよ。にわかに僕は信じられないが」

「そんなことが……」


自動装置というのは、カラクリのようなものだろう。


投石機やいしゆみなどもそれに当てはまるだろうが、なるほどそういう技術があったからこそ不毛な土地でも狩猟や貿易などでどうにかなっていたのか、と納得する。


そして、コルジール国が苦戦するのも理解できた。先日私が色々な武器を提案したときもそうだが、コルジール国は圧倒的に武器関連の知識が少なかった。


それは単に戦歴が少なく、コルジール国がマルダス以外の他国と争ったことがないからこそだろう。


もちろん争いは少ないほうがいいのだが、今後の戦闘を考えると知識や経験は多いほうがいい。


「今後もし友好国になるのなら、サハリの染色関連の機械を作ってもらいたいな……」


ぼそ、と話したブランシェの言葉にチラッと彼を見れば、慌てて「もし将来できたらいいな」と思っただけだよ、と取り繕われる。別に睨んだわけでも、特に何も言ってないのに。


「まぁ、それもアリかもね」

「え?」

「いや、だって。正直協力国になったらそれはそれでいいことだと思わない?敵対してる理由も、正直よくわからないのよね。あっちは豊かな土壌が欲しいのはわかるのだけど、別にその辺りはうまくやればいい話なのに、どうしてこうも捻くれてしまうのかしら」


それぞれ利権だの派閥だの面倒な「大人の事情」というやつが絡んでいるのは理解できる。だが、ある程度は目を瞑ってうまくやりとりすることもできるんじゃないか、とも思う。


まぁ、こういう考えをするのは私がまだ情勢をわかりきっていないからかもしれないが。そうだとしても、多少のボタンのかけ違いであればどうにかできないものかとも思う。


あくまで理想論だが。

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