第64話 スタンバイ

「くれぐれも注意してくれよ?」

「そっちこそ、すやすや寝ないでちょうだいね」

「それはどうかな。あー、ステラの匂いがする。キミが普段ここで寝てると思うと何だか興奮してきたな……」


耳を疑いそうな言葉に寒気がする。あまりに気持ち悪い言動すぎて、言葉も出ずに静かに白い目で見れば、「もちろん、冗談だよ」と本当か嘘かわからない声音で言われた。


ちょいちょいブランシェは直球のセクハラを挟んでくるからタチが悪い。最近ではだいぶ彼の言動に慣れてきた気がするが、それはそれであまりいい気持ちはしない、というか正直複雑な心地だ。


ちなみに、クエリーシェルは既に廊下で護衛兵に扮して待機してもらっている。もちろん、他の信頼のおける護衛兵達には伝達済みであり、それ以外のメンバーには秘密である。


窓から下を見下ろすと、外には絶えず警備兵がうろついている状態であり、例え下からの侵入を計画したとしても計画変更せざるを得ないくらいには難所となっていた。


「とりあえず、私は上で待機してるから。この部屋に侵入したのを確認したら、先にヤっちゃうから、そのつもりで」

「ヤっちゃうって……相変わらず言葉が乱暴だな」

「じゃあ……、地面に這いつくばっていただく?」

「もういい、キミにそういうことを望んだ僕が悪かった」


はぁ、と大きな溜め息をつかれたあと、布団に潜り込むブランシェ。普段寝ている布団に寝られるのって何かやっぱり嫌だなぁ、と思いつつも提案した手前、そんなことも言ってられずに大人しく屋上へと向かう。


その際、念のためにと棍を持っていくのも忘れない。自分の背に括り付けて、窓から屋上に這わした紐を手繰りながら出ると、ゆっくりと足元に注意しながら登っていく。


「ふぅ、着いた」


屋上につくと風はそこまでなく、多少昼夜の寒暖差を感じるものの、風がないため肌寒さは感じなかった。


空気が乾燥してるからか、空を見上げると満天の星空で思わず魅入ってしまいそうだったが、慌てて本来の任務を思い出し、視線を戻す。


「さて、どこに隠れようかしら」


そう言いながら、キョロキョロと周りを見回す。いくつか身を隠せそうな場所があり、その中でも最も身を隠せそうな塔の陰ではなく、煙突に隠れる。


(ここなら、多分あちらが利用することはないでしょう)


下手に潜伏先がバッティングしてしまっては意味がないと、あえて別の、それほど大きくない身の隠し場所に身を置く。


(ここなら、見晴らしもいいし身動きが取りやすいわね)


念のため、先日のクエリーシェル同様裸足になってあまり音を立てないようにしようとしたのだが、さすがに裸足では危険だし怪我をしたら危ないと、2人共から止められてしまった。


そのため、今回は薄手の内履き用の薄い靴を貰い、それを履いている。薄手のためか、裸足には劣るものの多少の凸凹など足下の状態はわかるものの、確かにあまり痛みはなく、音も出づらいようで一安心である。


(あとは、石をいくつか集めて……っと)


その辺に落ちている石は正直屋上ゆえかあまりなかったので、軽く崩れかけている部分を壁から剥がす。


こんなことをしたのがバレたらさすがのブランシェも怒るだろうが、今は誰もいないし、まぁこれで雨漏りにでもなるようなら、そもそも老朽化対策を怠っているだろうと勝手に心中で言い訳する。


(あとはもう待つだけ)


準備をし終えると、ただ私はそこでただひたすらに待つのだった。

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