第37話 女は度胸
「【だ、誰だ!?貴様、何をしている!??】」
さすがに見張りはついていたようで、見張り兵と鉢合わせる。
(うん、1人なら問題なしね)
見張りに関しては想定済みなので、不意打ちでまだ体勢も整っていない状態で思い切り振り被って勢いよく首筋に手刀を叩き込むと、見張り兵はその場で崩れた。
「ごめんなさい、ちょっと休憩だと思って休んでてくださいねー」
「ちょ、ステラ!早速バレたのではなくて!?」
牢屋からマーラの喚く声が聞こえる。一応扉を開けてすぐだったので、マーラも気づいたようだ。
「えぇ、大丈夫ですよ。ご心配なくー」
意識を失っていることを確認したり、他に特に打ち所が悪かったりしていないか確認したあと、少しの間どこかで寝てもらおうために重心を利用して倒れた兵の身体を起こす。
そのまま背後から重心の中心であるヘソの辺りに力を入れて抱えると、ずるずると後ろ向きに引きずっていった。
(うん、この辺で良さそうね)
物置のようになっている端のところにその兵を寝かせて、その辺にあった布袋などで隠す。思いのほか行く前から身体を使ってしまって、うーんと背筋を伸ばした。
(久々に動いたにしてはまぁまぁ動けてる、かしらね)
今のところ誰かが来る気配はない。見張りの様子的に私達が脱走するなど想定外だろうから、交代の時間もすぐに来ることはないだろう。どっちみち早くコトを済ませるに越したことはないが。
(まずは服の調達)
見知らぬ女がうろちょろするのは、さすがに危険である。なので、第一目標としてはここのメイド服の調達だった。
私は塔を駆け下りていき、物陰からこっそりと城内へと続く道を見つめる。多少廊下を歩いている兵もいるが、有事ではないため兵はまばらだ。
さすがにこの時間は兵ばかりでメイドや執事は見かけないが、まぁどうにかなるだろう。
「【そういえば、ブランシェ陛下の話聞いたか?】」
「【ん?何だ?いよいよ結婚か?】」
「【いんや、そうじゃなくて。例のあの方の偽物が現れたらしいぜ】」
「【マジか。へぇ、あの方の偽物か!国王の揺さぶりを狙ってか?相手も手段を選ばなくなっているな】」
大きな声で兵が話に夢中になってる隙をついて夜の闇に紛れて兵の目を掻い潜りつつ、メイドや従者達の部屋の方へと向かう。
(兵の話ぶり的に、まだ結婚してないのね)
まぁ、あの体躯であの性格ではなかなかどうにも決まる縁談も決まらないだろうな、なんて失礼なことを思いながら部屋へ侵入を試みる。
「お邪魔しまーす」
静かに一応礼儀として入室の挨拶をしつつ、ゆっくりとドアを開けた。そこはイビキと歯軋りと、とりあえずそれなりの騒音のオンパレードで、多少の物音なら打ち消してくれそうな環境だった。
音を出さないように気をつけながら、そうっとクローゼットのドアを開ける。そこにはずらっと一体何人分収容されているのだろうか、というくらい同じ衣装が綺麗に並べられていた。
「これこれ……」
誰のものかは定かではないものの、とりあえず拝借させてもらう。最近はめっきり着なくなったものの、普段から着慣れているのでメイド服に関しては早着替えは得意である。
「これでよし、と」
小物も身につけ、暗くてよく見えないものの鏡で己れの姿を確認する。髪をしっかりと結いあげれば、どこからどう見てもここのメイドだろう。
「あとは言い訳」
メイド服に着替えられたなら話は早い。あとは理由さえあれば、ブランシェの部屋に行けるはずだ。
以前来たときもメイドは自由に行き来していたし、専属がいた覚えもなかったので、現在もその方式を変えてないことを祈る。
(何か問いただされたら、胃薬辺りを頼まれた、ってことでいいかしら)
適当な粉末であれば、確かまだ火薬があったはずだ。これをカモフラージュに使おう、と手の内に忍び込ませておく。
きっと大食漢なブランシェのことだ。胃薬の所望を理由にメイドがうろついていても恐らく不思議ではないはずだ。……多分。
(うん、女は度胸ってね。堂々としてれば案外バレないはず)
自分に言い聞かせるように部屋を出ると、今度はブランシェの部屋へと向かう。彼の部屋は最上階の庭園側のはずだ。
私は胸を張りながら、宵闇が生い茂る廊下をゆっくりと歩いていくのだった。
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