第35話 導線確認

「まず、できれば導線を知っておきたいですね」

「導線?」

「えぇ、この牢屋はどこに繋がっているのか。そして国王の部屋まではどのように行けばよいのか、などです」

「なるほど。でしたら、ほらそこから……」


急に背伸びをして、光が差し込んでいる小窓を覗きこもうとする。マーラは私より幾ばくか身長は高いものの、まだどうにも高さ的に見ることはできなさそうだった。


「どうしたんですか?」

「……見てわかるでしょう。相変わらず意地悪ですわね。とりあえず、どうにか見てくださいませ」


ジタバタしてる姿に声をかければ、不貞腐れたように頬を膨らますマーラ。さすがに意地悪が過ぎた、と彼女に退くように促したあと、助走をつけてひょいと壁を登って窓枠に手をつくと、そのまま格子を握って身体を支えて覗き込む。


(あんまり昔と構造に変化はなさそうね)


今いる牢屋は地下牢ではなく塔の上だ。おかげで見通しはよい。ある意味運が良かったというべきか。


下手に地下牢などに入れられていたら場所の把握はおろか、じめじめとして陽の当たらない環境で陰鬱な気分になっただろう。そもそも、計略をする上で地下であればどうすることもできなかった可能性もある。


(いざとなったら、この辺りの距離までなら跳べるだろうか)


最悪、上からなら着地さえどうにかすれば逃げる道はある。下手したら死ぬ可能性もなくはないが、その辺りはそのとき考えれば良い。


(あぁ、あそこが城のメインエントランスで、姉様とあの裏の園庭で色々と散策したのだったっけ)


見える範囲を見下ろしながら、かつてうろついた城内を思い出す。記憶力はいい方だと自負してるので、大抵の城内は記憶している。


(ここの真下に食堂室があって、それから近くに食料庫。確か、舞踏会の会場も近くにあったはず。この辺りは従者達の居住区も兼ねていたはずだから、人は多いものの夜更けは静かだった気が……)


「ちょっと、大丈夫ですの?」

「え?」


後ろから声をかけられて振り向けば、マーラが不安げな表情でこちらを見ていた。


「ずっとぶら下がっている状態ですけど、お手が痛むのではなくて?」

「えぇ?あぁ……言うほどではないのですが。そうですね、とりあえず確認はできましたので降ります」


パッと格子から手を離して着地する。確かに多少手はジンジンと鈍るものの、動かす上で問題はなさそうだった。


「本当に皇女でしたの?」

「疑い深いですね……」


(まぁ、普通の皇女だったらあんなことできないのはわかってるけどね)


相変わらず疑いの眼差しを向けてくるマーラにちょっと呆れながらも、疑う気持ちはわからなくもない。とはいえ、そんなことの押し問答を今したところでしょうがないので、頭を切り替えて先程の情報を精査する。


ほぼ構造は以前来たときと一緒。王の私室はあのときの皇子の部屋のままなら場所がわかるが、国王になってから部屋を移動しているなら探すのに難易度が上がるかもしれない。


(そもそもどうやって忍び込むか)


牢屋からはどうにか抜け出せるかもしれないが、肝心のその後をどうするかが問題だ。


見回りの兵は深夜だろうと早朝だろうと1日中うろちょろしてるだろうし、それ以外の人は基本寝静まっていることだろう。


(誰かのフリをするというのは難しいから、ここのメイドに変装して忍び込むか)


寝静まっている間に服を拝借して移動するのがきっとスムーズであろう。メイド全員を兵士全員が把握してたらアウトだが、その辺はもう僅かな可能性にかけるしかない。


(あとはなるべく、私が不在なことがバレないこと)


今のところこの牢屋に人が来る気配はないが、いつ来てもおかしくはない。もし、私の不在時に来てしまったらすぐにバレて捜索が始まってしまうだろう。


マーラでは、恐らく私の不在時の対応ができないはずだ。彼女は顔に出やすいし、嘘は苦手なようなのは今まで接していた中でなんとなくわかっている。なので、彼女にどうにか誤魔化してもらう、という選択肢は正直ない。


できるとしても、ほんの少し騒いで時間稼ぎをしてもらうくらいか。となると、できるだけ彼女に注意を集めるよりかは違う部分に注目してもらう他ない。


(そもそも時間もないし、直球勝負で一気にブランシェを攻めるのが優先か)


いかに短時間でバレないように、ブランシェのところに潜入できるか。私はひたすら脳内で作戦を練るのだった。

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