第27話 不意打ち

「おぉ、リーシェ。戻ったのか」

「あぁ、ケリー様!ちょっとお話が」

「ん?どうした」


食堂室に不要だった携行食を戻したところで、クエリーシェルに見つかる。ちょうどいい、と人がいる場所を避けて、普段通らないような廊下の端で話すことにした。


「一応船長にもお伝えしたのですが、マーラ様が体調を崩されまして」

「そうか。まぁ、慣れない船旅だろうからなぁ」


きっとクエリーシェルは自分が体験した船酔いのことを想像してるだろうことが予想されるが、「いえ、そうではなく」とスッパリとその思考を切る。


「ん?船酔いではないのか?」

「えぇ、表向きはそう言ってありますが、本当は違います。ケリー様にはマルグリッダ様がいらっしゃるのでご存知だとは思いますが、例の定期的にくるアレです」

「あ、アレ……?え、っと、アレというと、あの女性特有の」

「えぇ、それです」


さすが、女兄弟がいると察しが良くて助かる。以前私が体調を崩したときもそれの心配はしてくれてたから知ってはいるだろうとは思っていたが、やはりある程度は把握しているようだ。


「というわけで、今日だけ私はマーラ様のお側におりますので、何かご用があればケリー様が窓口になっていただけませんか?」

「それは、構わないが……」

「男性には無理解の方が多いでしょうし、女性特有のものを忌み嫌っている方もいると思いますので、その辺も配慮してできるだけケリー様以外は部屋に近づかないようにしてくださると助かります」


あまりクエリーシェルには無理解な男性、というのがピンときてないようだったが、とりあえず承知してくれたようで助かる。


他の人に下手に漏れてしまって騒ぎになってしまうのは、あまりよろしくないだろう。下手にからかわれ、マーラの心の傷になってしまっても厄介だ。


「とりあえず、マーラ様は表向きは体調不良ということで押し通せってことだな?」

「そういうことです」

「承知した」


では、と次に武器庫に石を探しに行こうとすれば、なぜか腕を掴まれる。「ん?」と振り向けば、なぜかクエリーシェルに包まれるように、ギュッと覆いかぶさるように抱きしめられた。


「あの、……どうしました?」

「いや、ここのところ触れてなかったからな」

「そうですか……」


不意打ちでドキドキしてるのを悟られないように、口を引き結ぶ。


確かに、触れるのは久々であるかもしれない。船に乗ってからは、嵐だ、マーラだと大騒ぎだったし、そういう余裕すらなかったというか、そもそもそういうことを考える余裕すらなかった。


(久々だとドキドキする)


未だにこうしてくっつくのは慣れない。嫌いではないし、寧ろ好きではあるのだが、なんとなく居心地悪く感じてしまって素直に甘えることができなかった。


「もう、いいですか?」

「随分と冷たいな」

「急いで戻らないと煩い方がいらっしゃいますので」


言い訳をするようにマーラのことを話題にして彼の腕を擦り抜けるが、なぜか再び腕を掴まれる。「まだ何か……?」と振り向くと、そのまま頬を押さえられて軽く唇が触れる。


カッと顔が熱くなり、目を白黒させていると、彼は満足したのかすぐに唇が遠のいた。わずか数秒の出来事だっただろうが、頭が沸騰しそうなほど熱い。


「では、頑張って」

「~~~~っ!!!!」


真っ赤になった顔を見られたくなくて、駆け足でその場を後にする。


(不意打ちずるい、不意打ちずるい、不意打ちずるい……!!!)


呪詛じゅそのように心中で唱えながら、温石となる石を探すために武器庫へと向かった。

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