第42話 ブランシェ皇子

「だからキミはだな。今回の交流が一体どのようなものかきちんと把握して、……ってキミは何をやっている」

「え、これは食べられる草なのかと確認を……」

「は、はぁ!!?せっかく、この僕がキミにわざわざ説明してあげているというのに……!」

「頼んでないし、そもそも煩い」

「はぁぁああああああ!!!??」


あからさまに不愉快極まりない大きな声を上げるのは、このサハリの国の皇子、ブランシェだ。


でっぷりとした体躯に、ふてぶてしい態度。私よりも少し年は上らしいが、身長は私とあまり変わらず、いつもひたすら喋り続けて、うざったらしいったらありゃしない存在だった。


「キミはだね、一体ここに何しに来たのだね……!」

「え、観光」

「もうちょっとオブラートに包んだ物言いをしろ!」


(そうは言ってもなぁ……)


実際にここに来たのは、両親であるペンテレア国王夫妻並びに姉がここのサハリの国王に呼ばれたからである。


何でも、この不毛の地のサハリが、いかに国を繋ぐかの助言をして欲しいそうだ。それと姉に未来を見てほしいとのこと。私はとどのつまり、おまけなのである。


「そもそもなぜ、このサハリの国の皇子である僕が、キミなんかの付き添いをしなければならんのだ!」

「そうは言っても、実際に国内を見て回って率直な意見を言えって姉様が」

「姉、姉って、どいつもこいつもなぜあの女の言うことを聞くのだ!」

「え、だって、そのために姉様を呼んだのでしょう?」


本当はただ私は1人で勝手にぷらぷらと観光するはずが、姉が先程「ステラの言うことに従えば、道は拓けます」と謎の予言をしたことで、結局私も巻き込まれてしまった。


そして、このサハリの地を観光がてら皇子ブランシェと共に見て、率直な意見をサハリ国王夫妻ではなくブランシェ皇子にぶつけなさい、と姉から頼まれたのだった。


だから言いつけ通りに、いつも通りに色々と普段通りに見て回って思うことを口にしているのだが、この目の前の皇子はそれが気にくわないらしい。


「ぐぬぬ……っ、そ、そもそも、そんなインチキくさい予言など、当たるのか!」

「さぁ、私は未来が見れないからわからないけど。でも、こうして貴方のご両親が呼ぶくらいなのだし、信頼性は高いと思ってるんじゃないの?」

「ぐっ……!」


さっきから、自ら墓穴を掘っているのに気づかないのだろうか。彼は口は達者なようだが、いざペースを乱されると弱いらしい。


「で、実際さっきから見て、この国はどうなんだ!散々連れ回しておいて、いい加減まともなことを言え!!」

「さっきからまともなことを言ってるつもりだけど……」

「どこがだ!僕に痩せろだとか、もっと分別を持てだとか……!!」


地団駄を踏んで怒りを表す姿は、幼い子供のように見える。年上の皇子の振る舞いから程遠い姿に、自然と溜息が出た。


「はぁ、あのね。さっきから言ってるけど、貴方は全部根本的にダメ」

「は?」


ブランシェは何を訳のわからないことを、という顔をしているが、未だにきちんと理解していないようなので、あえて畳み掛ける。


「まずその見た目。国民が飢餓で喘いでいるというのに、そのだらしない身体は何?」

「いや、これは、私は幼少期、身体が弱かったから、好きなものを食べられるだけ食べろと……」


(まぁ、幼少期から甘やかされていたのだろうな)


国王はそれなりに分別がありそうだが、いかんせん王妃が皇子に甘いのだろう。この体躯でこの言動を咎めないというのは、いくらなんでも目に余りすぎる。……言葉が悪いと言う部分は、私も人のことは言えないかもしれないが。


「仮にそうだとしても、今健康であれば痩せててもおかしくないでしょう。その身体を見てたら国民の士気は下がるし、反感を買うだけよ。とっとと痩せること」

「や、痩せろと言ったって、そんな簡単には……!」

「できるでしょ。適度な運動さえすればね。こんな大して歩いてもないのに息が上がってぜぇぜぇ言ってるようじゃ、普段もろくに歩いてないのでしょ?」

「……っく!」


どうやら図星のようで、黙り込む。実際、1人っ子の彼が今後この国を担うことになったら今のままではついえるだろう。他国から攻められた時、それを防ぐほどの能力がこの男にあるようには思えなかった。


「それに貧しい、不毛だ、と嘆いてばかりだけど、言うほど酷くないじゃない」

「……は?」

「だって、ここには毛織物産業だって発達してるし、毛織物の工芸品がたくさんあるじゃない。それを他国に売って外貨を集めればいいでしょう?それに土地だって、東洋には不毛の地でも実る作物があるって聞くわよ。そういうの調べてる?さっき生えてた草だって、案外食べられるとかあるわよ。他にも他国には食虫文化があるところもあると聞くし……」


私がペラペラと喋り始めれば、聞いてるのか聞いていないのか、ただ私をぼんやりと見つめるブランシェ。……本当大丈夫だろうか、こいつ。


「聞いてる?」

「……あ、あぁ、聞いているだとも!だがな、我が国だってだな……」

「いや、まず聞く姿勢的にダメでしょ。まず何でも否定から入らないで、反論するのであれば意見を受け入れて1回自分の中で意見を噛み砕いてからね……」


という話を、くどくどくどくどと小一時間。ほぼ説教と言ってもいいレベルで一方的に言い、その後は教育的指導と称してブランシェにダイエットや性格矯正などを行ったのだった。

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