第40話 極秘会談

「では、現状の戦況についてお話するわ」


とある一室。


ここには、私とクエリーシェル、ヒューベルトにアーシャ、アジャ国王がいた。


昨日までとは打って変わってみんな真剣な表情だ。それもそのはず、今回は秘密裏の会談であり、今後のコルジール国だけでなく世界情勢を変えるかもしれない話し合いなのだ。


「あの、私がここにいてもいいのでしょうか?」


ヒューベルトが居づらそうにしている。まぁ無理もない。国の代表が集まっている中に同席するというのは、子爵のヒューベルトには少し重荷だろう。だが、今回は私がここにいることを許した。


「別にもう、今更隠し立てするようなこともないでしょう?国王直属として協力してもらうわ。密通とか送れるのであれば、そうしてもらった方がありがたいし」

「そこ!私語は慎みなさい!」

「失礼しましたー」


相変わらず、こういうときは手厳しい。まぁ、そりゃ国の命運がかかってなれば、国王並びに王妃として当然ではあるだろうが。


「まずはゴードジューズ帝国についてだけど、今内政はだいぶ混乱しているようね」

「混乱……?」

「バレス皇帝が倒れたのよ」

「何ですって!?」


思わずびっくりして立ち上がる。


(え、なら、もう私は自由の身……?)


淡い期待を持つものの、「落ち着きなさい。あと、最後まで話を聞きなさい」と席に着くように促される。


「倒れたとは聞いているけど、まだ健在よ。まぁ、とは言っても本調子ではないでしょうけど。帝国は必死で隠してはいるみたいだけどね。それで今、クーデターを起こそうとしてるものもいるらしくて、内政はちょっとごたついてるみたい」

「だったら、今攻めれば……!」

「随分と落ち着きがないわね。気が逸るなんて、ステラらしくないわよ」


指摘されてグッと黙る。確かに、我ながら焦りを感じて気が急っているというのはある。


(やっぱり自分が狙われているというのは、落ち着かないものね)


特に自分の身体。性の部分を狙われていると思うと吐き気がするほどの嫌悪感だ。できることなら、早くこの問題から解放されたいのは事実だ。


「とにかく今はまだダメよ。あくまで内政でゴタついていると言っても、上層部が全部揉み消しているの。バレス皇帝に媚びを売るためにね」

「時期皇帝になるために……」

「えぇ、誰もがその座を狙ってる。だからこそ、皆我先に武勇を上げようと必死よ。……特に、貴女を探すことに最も重きを置いているようだけど」

「ステラ様を……!?」


今度はクエリーシェルが立ち上がる。それをアーシャがすかさず視線でいなすと、ゆっくりと彼は自席に腰を落ち着かせる。


(考えてみたら、皇帝が私を狙っていることを言ってなかった)


私が狙われる理由は絶対に口にしたくないが、そもそも私が帝国に狙われているというのも、重要度としては低い認識だったはずだ。それがまさかの最重要案件が私だと知って驚くのは無理もない話だった。


「あの、一体どういうことでしょうか……?ステラ様が狙われているというのは」

「そのままの言葉通りよ。こちらの密偵から預かった秘密裏に出回っている王命書簡が、これ」


机の上に出されたものをクエリーシェルが食い入るように見る。だが、恐らく字が読めなかったのだろう、静かに私の前の方にその文書が回ってきた。


「私が読むの?」

「ステラなら読めるでしょ」


(自分が狙われていることを自らが読み上げるなんて、あまり気持ちいいものではないのだけど)


ここで不満を言っても仕方ないし、きっとここでこの字を読めるのは私とアーシャくらいだ。アジャ国王はどうだか知らないが、ここで私の代わりに読めと言うことなどできないのはわかりきっていた。


「えーー、っと。ペンテレア国の次女、ステラ・ルーナ・ペンテレアを連れてきた者には褒賞金さ、3億ダラー!!?」

「驚いてないで、続きを読みなさいな」


(いや、普通に驚くでしょ。小国の国家予算レベルの褒賞金なんですけど……!)


アーシャの美しいキリッとした瞳から、射殺さんばかりの眼差しで見つめられ、おずおずと再び文書に目を通す。


「え、と……3億ダラーを与える。また、今後の執政に対して優位な地位を約束する。ステラ・ルーナ・ペンテレアの特徴は青みがかったプラチナヘアに、翡翠の瞳、身長は低く、身体は貧相で子供体型……ってこれちょっと酷くない!?」

「まぁ、特徴は捉えてるわね」

「そこ、笑わない……!」


あからさまに、ニヤニヤ笑うアーシャ。この文書が色々なゴードジューズ帝国の重鎮達に配られていたと思うと、それはそれで腹立たしい。というか、バルドルがこの文書を読んで私に気づいたと思うと、さらにやるせない気持ちになる。


(せめて、あの肖像画で私を見つけていてほしい)


今更どうでもいいことだが、そこは私としては譲りたくない部分だった。


「さ、まだ続きがあるでしょ、続けて」

「また、瞳の翡翠色はペンテレアに代々続く特有の魔法の瞳であり、見分ける上で最も特徴的な部分である。連れてくる際には生け捕り。多少の傷は認めるものの、ほぼ一切傷をつけないほうが好ましい……以上」

「ということよ」


(ということって言われたって……)


隣にいるクエリーシェルは、酷く難しい顔をしている。ヒューベルトも一応私を気にしてくれているのか、幾度となくこっそりこちらを見ているのがわかった。

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