第37話 サーカス

「(うわぁ!すごい、すごいわ……!!)」

「(確かに、……これは圧倒されるわね)」


目の前で繰り広げられる大技の数々に、目を奪われる。くるくると目にも留まらぬ速さで回転して宙を舞い、次々と輪っかをくぐったり大きなハシゴを越えていったりする。


スピード感がとてもあり、観客が目をそらす隙など与えさせないほど惹きつける構成で、観る者を飽きさせない内容となっていた。


隣にいるクエリーシェルも、ジッと舞台に釘付けになっていて、観客席は暗くてよく見えないものの、心なしか顔が上気しているようにも思える。


確かに、普段自分ができないものをしているものを見ると変な高揚感が生まれるが、恐らくそういった類いの感覚だろう。自分にも身に覚えがあるからわかる。


私もある程度の技はできるとはいえ、ここまではどうにも高みを目指せてないと思う。マルダスにここまでの手練れがいるということはある意味恐ろしいと思いながらも、ここまで極めているのは敵ながら天晴れだとも思った。


(負けると思うと、悔しいわね)


つい、私の負けず嫌いの部分がむくむくと疼く。そもそも、こうしてクエリーシェルを魅了していることさえ、ちょっと癪である。


隣のクエリーシェルを見れば、未だ視線は釘付けのままだ。何となしに繋いだ手はそのままであるものの、技のときに緊張と共に不意に握られるくらいでムードも何もあったものではない。


「……どう思います?」

「ん?あぁ、凄いな」

「んもう、感想を聞いてるんじゃないんですけど……!」


ぷりぷりと頬を膨らませて怒ってみせるものの、クエリーシェルの視線は未だ舞台に向けられたまま、心ここにあらずだ。


ここで聞いたところで実のある答えは望めなさそうで、大人しく私も彼女達の舞台に再び視線を向ける。


女性だけの集団だけあって、迫力は少々欠けるものの、音楽の優美さに合わせてしなやかな動きや妖艶で緩慢な動きなどが調和していて、端的に言うならばメリハリがあると言える。


特に大人の女性という色気を前面に出したポールダンスは、曲線美と優美さの融合であり、隣でごくりと生唾を飲むのが聞こえるほど、男性は釘付けだった。


私としては実に面白くないが、そのことについてはあとで詳しく言及するとして、なるほど、腕や太腿の筋肉などを巧く使っているなと観察する。


柔軟も特に優れていて、少々身体が固い私からしたら想像もつかないような位置に足やら腕やらがあって、ある意味グロテスクな程である。


女性でここまでこのような動きができるというのは、相当鍛えているのだろう。観察して鑑みるに、このサーカスはそれぞれ専任がいるわけではなく、皆大体同じ技をやっている。


ということは、得意不得意はあるにせよ、皆同じレベルまで鍛えているということである。


そう考えたとき、ふと思い出す。


(あれ。そういえば、先日の賊も女性だったけど、動きが似ているかも)


出港前の夜、クエリーシェルの城の中で争ったときに見えた彼女もまた、思い出してみたらこのようなサーカス団のような動きをしていたことを思い出す。


(となると、あの密偵はマルダスの刺客?でも、なぜあのタイミングで……?)


謎が謎を呼び、段々と混乱してくる。


そもそももしかしたら、マルダスの刺客ではないかも。いやいや、逆にマルダスでなければ一体誰が。


(でも、アガにいる人達とも動きが違うのよね)


過去に会った暗殺や戦闘専門の集団を思い出す。


彼らもまた、戦闘に長けていたが、どちらかと言うと殺気が前面に出ていて、その場にいるだけでピリピリと肌が粟立つくらいだった。


だが、賊はどちらかと言うとしなやかな猫のような動きだった。戦闘中はもちろん殺気はあったものの、そもそものオーラが違った気がする。


(となると、やはり以前クエリーシェルの邸宅に忍び込んだのはマルダスの刺客ということで間違いなさそうね)


ある程度の思考が終着し終えたところで、演目もクライマックスへ。人がどんどんと人の上へと登っていき、さながら人間ツリーとでも言うべきものへと姿を変えていく。


最後の1人が登り終えると、辺りはスタンディングオベーションで、拍手喝采だった。私も他の人に紛れるように立ち上がると、大きな拍手をするのだった。

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