第14話 懐かしい顔
「(はい、さっき言ってた手紙)」
「(ありがとう、お姉ちゃん!)」
「(いいのよ。あ、さっきの話は……)」
「(ふふふ、わかってるわ!秘密、でしょう?)」
くすくすと笑う姿は、やはり親子だけあってアーシャを想像させる。まだ可愛らしさが残っているだけマシだが。
とりあえずアルルには女同士の秘密の話だと言って、特にアーシャには言わないようにと口止めしておいた。……効果があるかどうかは不明だが。
クエリーシェルには、とりあえず先程の話に関しては適当に言い繕っておく。
(隠しごとというか、そういうのはよくはないけど、内容が内容だしね。どうせ、きっと内容はわからないだろうし。下手に正直に言って、また気まずくなるのは私が嫌だ)
多少、私が動揺してたことで訝しんでいる節があったが、私が口を割らないこともわかっているからか、追及してくることはなかった。
こういう優しさというか、紳士さというか、気遣いができるところは、私にとってありがたい。きっとそれは年上だとか地位だとかそういうのではなく、彼の気質によるものだろう。
そういう部分に惹かれたというのもあるが、こういう要素がクエリーシェルの好きなところの1つである。
「そういえば、食事の作法を聞いてなかったんだが、どう食べればいい?」
「あぁ、手で食べるんですよ。口に運ぶ時は右手で。もしわからないようだったら、こっそりと周りを見ながら食べてみてください。あ、もうすぐアーシャ達が来そうですよ」
コソコソと話をする。クエリーシェルは多少不安そうに、小さくキョロキョロと周りを見回して、ソワソワしながら確認していた。
「粗相をしないといいが」
「大丈夫ですよ。あちらもそういう機微に聡いタイプなので、恐らくアーシャが根回していると思いますよ」
「それならいいのだが……」
考えてみたら彼は外交するのなんて初めてだろうし、そもそも国外に出る時は戦争であっただろう。ということは、今までと勝手がまるで違うことに戸惑っているはずだ。
つい色々なことを考えすぎて、クエリーシェルのことを失念していた。
(ダメね。こういうところが、王族として私に足りないところだわ)
「何かあれば私が責任を取ります。なので、不安がらないでください」
そっと彼の手を取って、指を絡めながら見つめる。すると、私の顔をジッと見つめたまま何かを考えているのか、そのまま固まっている。
「ケリー様?」
「いや、……そうだな、何事も経験だ。ある程度のマナーは心得ているし、こなしてみせるぞ」
急にやる気に満ち始めたクエリーシェルを不思議に思っていると、周りの空気が急に変わったことに気づき、侍女や執事達が一斉に向く方を見る。
「(お待たせ、ステラ)」
先程とはまた違った衣装で現れるアーシャ。夜に合わせて、シックで落ち着いた大人の女性を演出するようなロング丈で、色味も先程の鮮やかな赤や紫などとは違って青や白などに統一されている。
というか、そもそも一体、何度お色直しするつもりだろうか。
「(あぁ、ステラ姫……!見ないうちに大きくなられて)」
「(あぁ、本当……!ますますお母上にそっくりになったわね。今まで大変でしたでしょう?生きていて、本当に良かった……!!)」
「(先王様、先王妃様、ご無沙汰しております……!)」
懐かしい顔に、昔を思い出す。会う前は何となく気まずいと思っていたものの、会ったらなんてことはない、過去の記憶が呼び起こされて、自然と笑みが溢れた。
やはり年月が経っているぶん、2人共相応の歳の取り方をしているように思う。心労もあるぶん年齢よりも老けた気もするが、両親と年齢が近かった彼らを見ると自然と両親を思い出し、鼻の奥がツンと強張った。
(ダメダメ。会うだけで泣きそうになるだなんて)
「(先の戦争では、その、何だ……)」
「(いえ、お気になさらないでください。あれはもう、手の尽くしようがなかったことですから)」
「(だけど……)」
「(お気持ちだけで、十分です)」
言うやいなや、抱き締められる。温かくて、なんだか懐かしい香りがして、胸が熱くなった。
(この匂い、お母様も好きだった匂いだわ。あぁ、今思い出すなんて……)
「(何よ、もう。私と会ったときより感動的じゃない)」
アーシャが不満そうに言うが、その顔はなんだか嬉しそうだった。
「(さてさて、感動的な再会も大切だが、夕食にしようか。我はもう空腹で死にそうだ)」
「(もう、あなたったら!ステラ姫もせっかくのお食事だもの、楽しんでちょうだい?今日はペンテレアの食事も用意させたから)」
「(あ、ありがとうございます……!)」
嬉しくて思わず目が輝く。ペンテレアの食事なんて口にするのは、いつぶりだろうか。
(何が出てくるのかしら。シチュー?グラッセ?あぁ、楽しみ!)
「嬉しそうですね」
「えぇ、ペンテレアの料理を出してくれるそうよ。クエリーシェルの口に合えばいいけど、気に入ってもらえたら嬉しいわ」
彼が腕を出しエスコートしてくれるのに、寄り添う。久々に気分が良いのを実感しながら、案内されるまま、晩餐会へと向かった。
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