第51話 悶々

「リーシェ……」


クエリーシェルに抱き締められる。彼の厚い胸板に押し潰されるように抱き締められ、身体がいうことをきかない。そのまま、頬に手を添えられると、軽く何度も口付けられる。


耳元に口を寄せられる。その吐息はとても熱く、震えていた。


「……いいか?」

「はい」


(ん?はい、って何が?何がいいの?!)


自分で自分の返事に、内心ツッコミを入れる。というか、この状況は何だ?!


イマイチ状況が理解できないが、うっとりした表情で、自分がクエリーシェルを見つめているのはよくわかる。行動を起こしている自分と、頭の中の自分がまるで別人のように、相対していた。


目の前にいるクエリーシェルは、ふっとまるで花が咲いたかのように笑う。それが心を乱すというか、この人はやっぱりかっこいいなぁ、顔がいい、そして声もいい、なんて思っていると、今度は深く口付けられる。


「ん、ふ、……っ、……っふ、ぅ、ん……」

「はぁ、リーシェ……」


性急に服が乱されていく。乱しながらも口付けはされたまま、手慣れた様子で肌がだんだんと曝け出される。視線を合わすと、彼の瞳は情欲に濡れ、今まで見たことがないほどの色気があった。


(ちょ、ちょっと待って、まだ、心の準備が……!!!!)


「待ってぇぇぇ!!!!!」


ガバッ、と手を前に突き出して、勢いよく起き上がる。


「…………あれ?」


チュンチュンチュンチュン。


外から鳥のさえずりが聞こえるだけの自室。外は既に明るく、周りを見渡すが、クエリーシェルはおろか誰もいない。


「夢、か……」


勢いよく起き上がったからか、頭がぐわんぐわんする。額を押さえると、先程の夢の内容が呼び起こされる。


クエリーシェルの胸板、手、唇、吐息……


夢とはいえ、とてもリアルで自分の想像力の逞しさに思わず頭を抱えた。


(欲求不満か!欲求不満なのか、私……!!)


やけにリアルで、あのクエリーシェルの熱っぽい声を思い出すだけで頭が沸きそうになり、頭を抱える。


恐らく昨夜、あの寝る前の一件のことを考えながら寝ていたせいだろうが、それにしたってよくもまぁここまで想像力豊かに妄想できるな、自分!っていうほどの内容だった。


せめてもの救いは、夢だから誰かに知られることがないということだろうか?それでも、自分にあんな欲求があったことが恥ずかしくて仕方がないが。


思い出すだけで愧死きししそうなほど、顔が熱い。できることなら叫んで、城内中を走り回りたいくらいだ。……実際にはできないけど。


「大丈夫ですか?!リーシェさんの叫び声が聞こえた気が……!!」


勢いよく扉を開けて入ってきたロゼットにびっくりして、思わずベッドの上で飛び上がる。


息を切らして、片手に雑巾を持っているところを見ると、掃除中に私の叫び声に気づいて慌てて駆けつけてくれたようだ。申し訳ない。


「だ、大丈夫です。ちょっと魘されまして」

「魘される?大丈夫ですか?変な夢でも見たんですか?」

「へ、変なというか、なんていうか、その……」


再びあの夢を思い出して、隠したいのに勝手にかぁぁぁと顔が熱くなる。それを隠すように頬を手で覆うが、もはや顔を隠すことなど困難だった。


あからさまに恥じ入る私に、ははぁんと何かを悟ったのか、「ちょっととりあえず済ませるものは済ませてくるので、少々お待ちください。あと朝食もご用意しますね」とニヤつきながら出て行くロゼット。


以前に比べて、表情豊かになって接しやすくなってきているのはありがたいが、あの感じから察するに、恐らく根掘り葉掘り聞かれることだろう。もしかしたら、話のネタにされるかもしれない。


なんとなく嫌な予感はするが、1人で悶々と悩むよりも誰かと話したいのは事実で、ロゼットに話すべきかどうか悩みながらも、彼女が来るのを待つのだった。

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