第13話 執着
彼女は嘘や隠しごとが多い。
我が家に来た当時からそれは感じていたが、まさか実際は姫であったり、それがペンテレアという亡国であったり、と驚かされることばかりだ。
誕生日のことも追求しなければ、そのまま隠されていたことだろう。ある意味、ペルルーシュカに感謝しなければならないが、いかんせん彼女のリーシェに対する執着は常軌を逸しているような気もする。
(人のことは言えないだろうが)
自分の気持ちを自覚してから、どうしてもリーシェに執着している自分がいるのには気づいている。
彼女はわざとなのか天然なのか、私が距離を縮めようとすると遠ざかっていく傾向にある。そのため、程よい距離感を保とうとはしているが、いかんせん自覚した恋心というのは制御が難しい。
今まで一緒にいたときは、それほど気にしなかったことでも一々目につくし、彼女の一挙手一投足が気になって、ついつい余計な口を出してしまう。
だからなるべく視界に入れないよう、距離を近づけすぎないようにしているのだが、無意識に目で追ったり近づいてしまったりしているようで、思春期の娘かのごとく、現在はそれとなく敬遠されている。
(どこの思春期のガキだ、全く)
己の行動に忌々しく感じながらも、だからと言って意識してもどうこうなることもなく、こうして現在進行形でヤキモキしていた。
今朝だって、リーシェの普段見ないようなドレス姿に勝手に顔が熱くなり、
近づく彼女の肌はさすが若々しく、ふっくらとして艶やかな唇に、普段は隠された胸元。晒された
そもそも、さすが皇女だっただけはある。どことなく気品はあるし、佇まいや仕草も上品で、洗練されている。本人には自覚はなさそうだが、それは誰の目にも明らかで、わかる人にはわかるのだ。
だから、最近ではよく、ヴァンデッダ卿のところに出入りしているあの娘は誰だ、とちょこちょこと噂になっている。まさかそれが今回、ここまでの集客になるとは思わなんだが、これはこれでまずい状況である。
彼女の噂が広まれば、リーシェが元皇女だということがバレることもそうだが、単純に恋のライバルが増える可能性が高い。
後ろ盾がないと本人はよく言うものの、カジェ国の王妃に言えば、すぐさま後ろ盾になるだろうし、どこかの貴族が養子に引き取るとも言い出しかねない。
ダリュードとも先日何かあったようだし、ハンカチーフを借りたということはリーシェが泣いた可能性がある。
というか、グリーデル大公もリーシェが気に入っているようだし、ダリュードもまんざらではなさそうだし、私としては気が気じゃない。
(あぁ、かと言って口煩く言えば、しつこいだと言われるし、私は一体どうすればよいのだ!!)
ファーミット卿の話をそこそこに聞きつつ、視線は未だリーシェのまま。彼女はクレバス卿と話した後、ペルルーシュカにホールへ連行されて行った。
(私だってまだ踊ったことがないと言うのに……!)
甥のダリュードにも部下のニールにも先を越され、なぜにこんなに近くに一緒にいるのに、未だダンスすら踊っていない自分自身の不甲斐なさに嫌気がさす。
(クイードに言われた通り、もっと攻めた方がいいのだろうか、いや、だが、でもなぁ)
「ヴァンデッダ卿?」
「はい、何でしょうか」
(危ない危ない。思考に集中し過ぎていた。なんだか行動までリーシェに似てきた気がする)
ファーミット卿の話に今度は集中する。以前のファーミット卿の領地であった、港町コースローでの取り組みや、我が領地の港町ブランカについてが主な話ではある。
そして、新しく領地替えとなった港町アブロとその旧領主であったクォーツ家についてなどにも話が派生する。
だが、さすがに国家機密であり、いくら現領主で侯爵家とはいえ、私の口からは言えないことも多々あるので、ある程度はぐらかしながら話す。
(随分と根掘り葉掘りだな)
少し違和感を覚えながらも、明言について避けると、「そういえば、ヴァンデッダ卿は国王と寄宿学校の同級だとか」と、ファーミット卿は急に別の切り口から話を振ってくる。
「えぇ、まぁそうですね」
「では、特別国王とは親しいと」
「そのようなことはないです。国王も公私は分けてますので、一領主や国軍総司令官としての立場以上のやりとりはないです」
「そうですか……」
(何かやけに引っ掛かるな)
あえて、クイードとの親交は言わなかったが、このようなことを聞いてくることに僅かながら不信感が生まれる。ただの好奇心かもしれないが。とはいえ、そこを今どうこうできることもなく、上辺だけの会話を繰り返した。
(あぁ、早くリーシェの元へ行きたい)
ファーミット卿と会話をしながらも、思考は自然とリーシェに無意識に支配されていくのだった。
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