第2話 トラブル体質

ロゼットに留守番を任せて、本日は買い出しに港町ブランカに来ている。ここは以前にクエリーシェルと懐中時計を買いに来たところである。


(久々に1人で出掛けるのは、やっぱりいいものね)


怪我のためずっとクエリーシェルがつきっきりだったのだが、ちょっとずつ自分でできることを増やそうと、今回はクエリーシェルが王城に行ってる間に1人でおつかいをすることになった。


クエリーシェルにはあまり1人で行動するな、と釘を刺され、本当は新しく護衛に来たバースがお供しますと付いてこようともしたのだが、ロゼット1人で留守番も心許無いし、私は自分の身は自分で守れるのでロゼットのほうについてもらうことにした。


もちろん、彼等には今日私が1人で行動することはクエリーシェルに口外しないようにと根回し済みだ。


(ふぅ、それにしてもだいぶ動けるようになった)


あれから鈍っていた身体を本調子にするべく、ちょこちょこと気功やら武術やらをやっている。


だが、それをすぐさま見つけてはクエリーシェルに咎められるので、最近ではこっそりといかにバレないかを思案しながらやっていた。そのせいか気配探知に物凄く機敏になったような気がする。


(ある意味、別のスキルが上がったということで良しとしよう)


相変わらず賑やかな港町だ。先日の騒乱の舞台とは違った港町とはいえ、綺麗に収束させてかつ噂にもならずに、このように何事もなく貿易を行なっているのはある意味すごいと思う。


(秘密裏に領地替えなどしてるけど、領民もさほど違和感を感じてなさそうだし、国王の手腕がよいと言わざるをえない)


あの国王は普段飄々としているが、食えない御仁である。最近では私に対してもだいぶ素を見せるようになったが、あれが本来の姿なのか疑問に感じる場面も多々あって、実に不可解な人物であった。


(ま、あれくらいの食わせ者でないとこのような大きな国を運営していくのは難しいのかもね)


それにしても、その国王とクエリーシェルが仲良くしているというのも面白い話である。さして性格や思考が似ているわけでもなければ、どちらかというと正反対なのに。


男の友情とはよくわからないな、なんて考えながらも街中を散策していく。


(さて、今日は何を買おうかしら)


一通り家にある在庫を確認したが、切れているものは食材と香辛料なので主に食料品関係だ。


ロゼットとバース、2人増えただけでも食料の減りは今までの比じゃないほど早く、またロゼットの料理の練習にと品数も増やしたので、以前のようにまとめ買いではなく定期的に買わないと追いつかなくなってきているのが現状だ。


(何か掘り出しものがあるといいなー)


久々の買い物、しかも自由に気兼ねなくできる買い物に、心踊らせているときだった。


「キャーーーー!!」


明らかな悲鳴に顔を上げると、なんだなんだと野次馬がわらわらと集まっている。その人集りの波の隙間を縫っていくと、私と同世代の少女だろうか、恐らく貴族の娘だろうと思われる人物が人質として粗暴な連中に捕まったようだった。


(まさか、ここでトラブルが起きるなんて)


悪漢は顔の特徴的に、恐らくこの辺りの者ではなさそうだ。そもそも、もしこの近辺に住んでいる者であれば、ここの領主であるクエリーシェルのことを知っているはずだし、彼の功績・実績を知っているならなおのこと、ここで悪事は起こさないであろう。


というのも、彼は非常に犯罪に対して手厳しい。だから徹底的に兵を鍛え上げ、事前に問題が起きないように対処し、また起きてしまった場合は徹底的に犯罪者を痛めつけてそれを周知させている。


なので、この国の領地の中で最も治安が良い領地だと言われていたのだが。


(ここのところの領地転換で流れてきた者、といったところか)


まぁ多少の弊害は仕方ないとはいえ、現在クエリーシェルは王城にて不在のため、早々に対処できるのはここの兵か、恐らく私のみである。


だが、兵はいるものの人質を取られ、さらにはその人質の身につけているものなどから身分が高そうだと推測される。だからか、迂闊に手を出すに出せないような状況のようだった。


(ここは私の出番か)


本調子ではないのだから無理をするな、とクエリーシェルから口酸っぱく言われてはいるが、今は緊急時である。


そもそもここはクエリーシェルの領地。では、その領地を守護するのはその使用人であるのは必然であると、自分で自分に言い訳する。


そしてリーシェは再び野次馬の波を掻き分けて外へ出ると、近くにあったそれなりの大きさの小石と物干し竿を持って、現場の見通しがよく、なるべくバレないかつ近場の建物を見つけると、物音を立てずにこっそりとよじ登るのだった。

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