第6話 入浴
浴室へ向かうと、なぜかそのまま一緒に着いてくるリーシェ。何をする気なのか、と特に言及せずに浴室へと到着すると、服に手を伸ばされた。
「……何をしている」
「お召し物を外そうと」
「いや、自分で脱げる」
「さようですか」
では、脱いだものはあとで洗濯致しますのでこちらのカゴに入れておいてください、と言うやいなやそのままスタスタと脱衣所から出て行く彼女。
至れり尽くせりなのはありがたいが、一体どういうことまでするつもりなのだ、と少し不安になってくる。
さすがに自分の半分しか生きていない娘を手籠めにするほど落ちぶれていないが、人によっては危うい行為には間違いないだろう。
(って、娘を心配する父親か、私は)
自分で自分の思考にツッコミを入れながら全ての服を着脱すると、脱衣所から浴室に入る。
「何だ、これは……」
浴室に入り、今まで見たこともない色の風呂の湯に、思わず「リーシェ!」と使用人の名を呼んでいた。
「はい、何でしょうか」
「何でしょうかも何も、この湯は一体どうなっている」
「薬湯です」
「くすりゆ?」
「ところどころ傷があるようにお見受けしたので、擦り傷や切り傷に効くように
「蓬にそんな効果があるのか」
「えぇ、他にも色々ありますよ。ラベンダーやレモンバーム、東洋にはもっと色々とあるそうです」
どこで身につけたのか、自分にはない知識をつらつらと並べられて反応に困る。
(本当にこの娘はただの使用人なのだろうか。そして、そもそも本当に年齢は16なのか)
というか、考えてみたら現在私は裸だというのに、特に恥じらいもせずになぜ普通にしているのか。大事なイチモツは己の手で隠しているとはいえ、何だか気恥ずかしくなっている自分が恥ずかしい。
(とりあえず、入ればいいのだろうか)
「このまま入ればいいのか?」
「はい、このまま入っていただいて問題ないです。できれば、お湯加減確認していただきたいのですが」
「あぁ、わかった」
何となく急かされている気がして、意を決してどぶんと浸かる。少し肌がピリピリするような気がするが、別段悪くない。独特の匂いはあるものの、なんだか心なしか、入ったばかりのときよりポカポカする気がする。
「お湯加減はいかがでしょうか?」
「あぁ、ちょうどいい」
「髪を洗いますので、上を向いていただければと」
「いや、大丈夫だ。自分で洗える」
「では、お背中をお流し致します」
「いや、それも大丈夫だ」
「では、私は食器を片付けますので何かあればお声掛けください」
「あぁ、呼び出して悪かった」
スタスタと再びダイニングへと戻ったであろうリーシェを見届けたあと、ふぅ、と息をつく。
(自宅で風呂に入ったのは、いつぶりだっただろうか)
浴室は綺麗に片付けられ、風呂もしっかりと隅々まで洗ったのだろう、底が
(そういえば、帰ったばかりでぼんやりしていて気づかなかったが、家が見違えるように綺麗になっているな)
約1日の間によくこれほどまでに掃除をし、料理と風呂まで準備しているとは、感心を通り越して驚きである。
この薬湯を用意するにしたって、湯に葉が浮かんでいるでもなく色がついているだけのことを見ると、ただ蓬を入れているわけではなく、何か手を加えて葉の成分だけを出しているのだろう。
つくづく手が込んでいる。
(あぁ、眠い……)
食事を済ませ、ゆっくりと湯船に浸かったことにより、睡魔がこ招きしている。
(早々に洗って早く寝よう)
朝になってから寝るというのは忍びないが、ここのところの連勤を考えれば仕方ない。通常の領主の業務は、明日からすれば問題ないだろう。
洗髪と洗身を済ませ脱衣所に戻ったとき、タオルを持って待ち構えていたリーシェに、思わず女のような叫び声を出してしまったのは、後にも先にもこの1件のみである。
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