第96話 戦果の使い道

 …………。


「以上よ、ご主人さま。どうかしら?」


 どうかしらって……。


 これ完全に駄目なやつだろ。

 お城が巨大なクレーターになって、そこから島一個がバラバラに砕けて大津波が発生して、それを大嵐が包み込むとこか、どこの世界の終わりだよ。


 ってか島一個を一撃で破壊って。

 ソフィアさんの火力のぶっ飛びっぷりが凄いな。


「ジャーメレナさん。このバラバラになった島が」


「ええ、グレードランダルフ島よ」


「あのクレーターになったお城は」


「多分エンデルベ城ね」


「ジャーメレナさんの祖国ですよね?」


「そうね」


 そうねって、そんなあっさりと。


「祖国といってもほとんど接点もなかったし、そもそも足も踏み入れたことのない場所よ。思いれもなにもあるわけないわ」


 いや、まあそれはそうかもしれないけど。


「それでも一度は帰ろうとした場所ですし」


「ああ、でも、お祖父様達は驚くでしょうね。何せ長年待ち望んだ、まだ見ぬ祖国が本当に見えなくなってしまったのだから」


 …………。


 ジャーメレナさんのご家族の皆さん、なんかうちのわんこがほんとに申し訳ありません。


「それでどうするつもりなのかしら?」


「グレードランダルフ島ですか?」


「そ、あの騒ぎの後だし、だれも住んでない島になってると思うけど」


 うーん、この領地の開発もまだまだ残ってるしなあ。どうするかね。


「領有権を得た土地に勝手に人が住み着くことはあるのですか?」


「それはないわね。もし侵入しようとすればレハパパの時と同じ状況になるだけよ」


「戦争ですか」


「そ、宣戦布告をして主権者に勝利し権利そのものを奪い取る、もしくは主権者に上陸の許可を得るかのどちらかしかないわ」


 ん?


「ということはジャーメレナさんのお爺さん達は島に近づいても、上陸もできないということですか?」


「そうね。長い航海の末にたどり着いたまだ見ぬ故郷は本当に見えなくなり、たどり着いた島は上陸も許されないなんて、悲劇を通り越して喜劇よね」


 なんか本当に申し訳ありません、ジャーメレナさんの家族の皆様。


「ふう、やさしいのねMy Lord。既にあなたは一度彼らに救いの手を差し伸べたわ」


 救いの手? ああ、移住の勧誘のことか。


「でも彼らはその手を取らずに彼らの信じる道を進んだのよ。たとえその先にどんな結果が待ち受けていようと、あなたが気にすることはないわ」


「そんなものですか」


「そんなものよ。それであの島はどうするつもりなの?」


「用途が見つかるまで当面放置ですかね。今はまだ人手も時間もケオブルメイルにかけたいですし」


「そうね、それでいいんじゃないかしら」


 ま、島って言うくらいだしな、そのうち別荘でもつくるかね?


「あとはこの賠償金ですね。一人一億……英雄殿、一体何人くらいの冒険者がいらっしゃったのですか」


 何人くらいいたんだろうね?

 ざっと見ても100や200って数ではなかったのはわかるんだが。


「あの時あそこにいた冒険者は1000人は越えてるわよ」


 !?


「となると単純計算で1000億ですか。英雄殿、国作りを考えればなかなかの臨時収入ですね」


 1000億がなかなか程度かぁ。さすが元王様だね。


「ただ、すぐに1000億は無理だと思うわ」


「なぜでしょうか?」


「簡単よ、ファウスティーナ。請求先の冒険者のほとんどがお金を持ち合わせていないからよ。1億なんてお金が簡単に用意できるのなんて10人もいないんじゃないかしら?」


 だなぁ、俺も1億なんて用意できないわ。


「では分割という形になりますね」


「そうね。戦神の采配だし、形はどうあれ絶対に回収はされるでしょうけど」


 借金の取り立てに神様が絡むとか嫌すぎる。


「定期的にそこそこの小金が入る程度の認識でいればよさそうですね」


 …………。


「あら? どうしたのかしらMy Lord」


「いえ、国としてはどんな形であれ収入が入るのはとても喜ばしいことなのですが、一部の冒険者を完全に敵に回してしまうなと。それに原因となったレハパパを逆恨みするような連中も出てきそうですし」


 賠償金の行先が同じ一プレイヤーだってのがばれたら、つるし上げも喰らいそうだしな。


「そうね、でもあいつらにもう一度レハパパを襲うだけの力があるかしら?」


 ?


「レハパパの街が火鱗族なんかの一部の種族以外には普通に過ごすにはなかなか難しい所だというのは知っているわよね?」


「そうですね、あの熱は一朝一夕で耐えられるものではありませんね」


「あそこにいた連中じゃあの灼熱の街に耐えられないもの」


 どういうことだ?


「あいつらがあそこにいられたのは私たちが火護石を貸与していたからなのよ」


「では普通の彼らではあの灼熱には耐えられないと」


「無理でしょうね」


「ですが彼らの手元にはその貸与された石があるのでは?」


「ないわよ」


 へ?


「あれは一日限りの契約でかハバメヤメから貸し出していただけ。契約期間が終わっちるから、すべてハバメヤメの倉庫に戻ってるわよ」


「そんな便利なことができるのですか?」


「できるのですかって……My Lord、あなたにもできるわよ。国内の物で国の所有物であれば。もしかして国や領の主権者が何ができるか全くわかってないのかしら?」


 …………。


「どうやらわかっていないようね。セリスあなたから何も伝えていないの?」


「そうですね、この街の特殊な能力についてはお伝えしていますが、それ以外は」


「ま、話を聞いた限りだとついこの間まで10人にも満たない人口だったみたいだし、必要がないといえば必要がなかったものね」


 だなあ、街どころか村ですらなかったもんな。建物も小屋のみだっし。


「じゃあちょうどいいわね。これからたっぷりと勉強しましょうかMy Lord?」


 え???


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