第93話 天国は地獄

「お帰りなさいませ、市長」


「おはようございます、セリスさん」


 お、今日は珍しく誰もいないのか。

 というか、毎回毎回ログインと同時に仲間に死に戻りさせられてるって凄いゲームだよな。

 敵より味方の方が遥かに危険とか、これで俺の回りにいるのが全員むさいおっさんだったらクソゲー確定なんだが。


「どうかされましたか、市長」


 これだけの美人に囲まれてるんだ、それだけでもINする価値があると思ってしまうのは男の性なんだろうなぁ。


「いえ、なんでもありません」


 さて、今日はなにをしようかね。

 昨日はさすがに盛りだくさんすぎたしたな、領地内でのんびりブラブラして過ごそうか。


「市長、ジャーメレナ様がなにか御用があるそうです」


「わかりました、それでジャーメレナさんはどちらに?」


「もう少しでこちらにいらっしゃるようです」


「そうですか。それであればここで待つことにしましょう」


 っと、システムからメール?


 えーと、なになに


 《レハパパ防衛戦の戦果について》か。


「市長、ジャーメレナ様がお戻りになられたようです」


 っと、中身の確認は後でいいか。


「おはようございます、ジャーメレナさん」


「おはようございます、ジャーメレナ様」


「おはよう、セリス。それとMy Lord」


 いきなり雑な扱いだな、おい。

 ま、悪気がある感じだし、ジャーメレナさんらしさってとこなのかね。


 あとちょっと楽しそうだね、セリスさん。


「待たせてしまったかしら?」


「いえ、今来たところですよ」


 しかし、えらいボロボロだな。


「ああ、これ? ソフィア達に稽古をつけてもらっていたのだけど。少しいえ、かなり派手に汚れているわね」


「ソフィアさん達が相手ならば仕方ありませんね」


 俺なんざボロボロどころかバラバラとか粉々とか、何度繰り返していることか。


「ちょっと着替えてくるから、もう少し待っていてもらえるかしらMy Lord」


「わかりました」


 しかし昨日の今日でボロボロにされるほど鍛錬する仲か。なかなか馴染むのがはやいなジャーメレナさん。


「市長?」


「いえ、領地になじむのがえらい早いなと」


「ジャーメレナ様のことでしょうか?」


「ええ。やはり元王というだけあって、人を惹きつける何かを持っているのでしょうかね」


「それもあるかと思いますが……この領地の空気がそうさせているのかもしれませんね」


 空気ねぇ。

 ソフィアさんに紅さん、ロカさん、ジャーメレナさん……暴れん坊がのびのびできる空気があるってことか。まあ領地の特色と思えばそれはそれで……


 …………。


 それはそれでどうなんだろうな?

 なんかバイオレンスナシティみたいで駄目な気がするな。


「皆さまでは節度をもって行動されていらっしゃいますので、問題はないかと」


「そうでしょうか?」


「はい、では問題はありません」


 領内では……か。意味深すぎるわっ!


 というか、ナチュラルに俺の心の声に答えないでください。ほんとに読心術みたいな能力でももってるとしか思えないんですけど。


「何度も言いますが私が心を読んでいるのではなく、市長の表情が多くを物語っているだけです」


「語っていますか?」


「はい、それはもう」


 うーむ、思考駄々洩れはいやすぎる、精進せねば


「待たせてしまったわね。あら? 難しい顔をしてどうしたのMy Lord」


「いえ、全く待っていませんよ、ずいぶんお早いお戻りですね」


 きれいさっぱりしてるし、そういう魔法でもあるのか?


「それはそうよ。私の部屋がすぐそこにあるんだもの」


 は?


「まだまだお部屋が空いていますので」


 空いていますのでって。


「あら? 何か問題かしら。設備も眺めも素晴らしいし、ソフィアたちともすぐに合流できるし、最高の環境よ」


 まあ、ジャーメレナさんが気にしないならいいんだけどさ。しかしこの染まりっぷり、あれだなジャーメレナさんは慣れる慣れないというより、はまるところにはまったって感じだな。


「そうね。お城暮らしなんかよりここの方が遥かにしっくりくる感じよ」


 ……。


 精進、しないとな。


「そんな無駄な決意よりMy Lord」


 無駄って、ほんとに俺の扱い雑だなおい。


「なんでしょうか?」


「この国の名前って考えているのかしら」


 名前?

 そういやあんまり気にしてなかったな。


「どうやらなにも考えていないみたいね」


「今まで特に支障がなかったので」


「はああ。セリス、私から言ってもいいかしら?」


「おねがいします、ジャーメレナ様。市長はそこにお座りください」


 ?


「違います。そちらの椅子ではなく」


 え? 床ですか?


「膝を崩してはいけませんよ」


 え? 正座ですか?


「不思議な座り方ね」


「市長が真剣に私たちのお話に耳を傾ける際の座り方です」


 は? え? これってむしろお説教スタイルだよね?


「でも……うん、何かいいわねこれ」


 ……。


 小鬼。


「その膝に重しを乗せようかしら?」


 拷問!?


「では私が」


 は!? セリスさんが膝の上に!?


「ではお願いします、ジャーメレナ様」


 マジで? このまま進めるの?


「いいかしらMy Lord」


 いや、全然よくないですよ。


「あなたが支障がないと感じているようだけど」


 支障出まくりですよ。

 なんか太ももに柔らかい感触が!?


「対外実務をこなす現場にとって自分たちの国名がないってのは結構大変なのよ」


 俺も色々大変です!


「聞いているのかしら?」


 聞いてませんよ! ってそんな余裕あるわけないでしょ!

 しかも足がしびれてきたし。


「市長、しっかりとお話を拝聴してください」


 いや、妨害しまくってる張本人が何言ってるんですか?


「少し懲らしめなくてはいけませんね」


 ?


 柔らかいものが太ももの上でもそもそと……


 ぎゃああああああ。


「市長、しっかりとお話を聞いてください」


 あああああああ、足が、足がああああ。


 や、柔らかいものが太ももに押し付けられるたびに、足が床にゴリゴリとおおおお

 て、天国と思わせておきながら実は地獄行きとか!


「例えばハバメヤメと交わした書類についてだけど」


 いや、ちょっと、ジャーメレナさん。なんで淡々と説明してるの?

 どう見ても俺、普通の状況じゃ無くね?


「し、ちょ、う」


 ぎゅああああああああ。


「気を散らしてはいけませんよ」


 あががががが。


「ここを見なさい。ハバメヤメは国印なのにこちらは辺境の領地って」


「ですがレンドンドさんは特に何も」


「へえ、口答えできるほど余力があるのね」


 !?


「市長、今はお話を聞く時間ですよ」


 うぼうおおおおおお。


「さて、続けるわよ」


 小鬼腹黒ハイブリット拷問……


「My Lord」


「し、ちょ、う」


 あああぁぁぁぁあああ!

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