第32話 玄関開けたら二秒で

「市長、どうかされましたか?」


 セリスさんの笑顔が今までで一番黒い気がする。

 この笑顔を見てると、さっきまでの不安がどんどんと増幅されていくんだが。

 だが、何がどうというのがわからないからな。漠然とした不安の話をしたところでどうにもならないか。


「市長?」


 うん、まあ、考えてどうにかなるもんでも無さそうだし、今は取りあえず気にしないでおくか。


「いえ、なんでもありません。少し領地のこれからについて考えていただけです」


「そうですか。では早速領地の開発を進めましょう」


 えーと、建物はロカさん達が建ててくれてるし、後は領地の拡張か。

 って、あれ?宝玉の項目が全て選べなくなってる。どういうことだ?


「市長、何かありましたか?」


「いえ、宝玉の開拓に関する機能が何も選べなくなっていまして」


「なるほど。もしかすると集めた魔獣の核の力を、全て使い切ってしまったのかも知れませんね」


 え? 結構の数があった気がするんだが。建材関係でもそれほど使ったとも思えないし……。


 はっ!? まさか!


「この通話機能の追加が原因でしょうか?」


「そうかもしれませんね、使える、便利な機能ですから」


 それもそうだな。しかも住人全体に効果があるみたいだし、宝玉が消耗したとしてもしょうがないかもしれないな。

 って、待てよ。魔獣の核の力が無くなったということは……。


「さあ、魔獣の核を集めましょう!」


 ですよねぇ。


「狩りの時間でござる!」


 ですよねぇ。


「ソフィアさん、あれは無しでお願いします」


「承知したでござる!」


「それでは少し外に出てきます」


「いってらっしゃいませ、市長」


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


 ふう、狩られた狩られた。


「おかえりなさいませ、市長」


 でも、前よりは長持ちするようになったかな? まあなによりも、原因が敵じゃなくて味方ってのがあれだよな。


「今回もひどい目に会いましたよ」


 確かにあのたゆんたぬんに気をとられた俺も悪い、俺も悪いが。倒した魔獣を、辺り構わず放り投げるソフィアさんもどうかと思うんだよね。

 それぞれのスタイルもあるだろうし、あまり余計なことは言わないけどさ。

 あれって、狩りというよりは殺戮って言葉がぴったりなんだよね。一対多数だと凄いんだけど、多数対多数になると、その凄さのせいで味方にも被害がでるっていうね。


『ソフィア様から呼び出しがあります』


 噂をすれば影ってか。


「どうかしましたか、ソフィアさん」


『御屋形様、目に見える範囲のものは狩り尽くしたようでござる。戦利品を回収して帰還するでござる』


「わかりました、気を付けて帰ってきてください」


『承知したでござる』


 うん、やっばりこれ便利だ。使った魔獣の核も多かったみたいだけど、機能拡張して正解だったかな。


「市長、ロカ様達の作業が完了したようですよ」


 お、終わったのか。さっき側を通ったときは、何故か鳳仙達が魔法で隠して見せてくれなかったからな。

 さてさて、どんなものかできたのかな? みんな建築が得意ではないって言ってたし、この小屋とおんなじ感じかな?


「早速、確認に行ってみますね」


「いってらっしゃいませ、市長」


 ……玄関開けたら二秒で豪邸! なんか、目の前に大きな洋館が建ってるんだが。


「あ、おやぶーん、ご注文の建物ができたぞ!」


「あら、ご主人さま。もう、もどってたのね」


「あの、これは一体……」


「? 我が主が求めたものを、皆で作っただけだが」


 建築得意な人は、いないって言ってたよね?


「本当は、もっと堅牢な感じにしたかったんだぞ」


「でも、流石に私達じゃあお城は難しくて」


「取りあえず、妾達で作れるものを作って見たのだが。気に入ってもらえそうか?」


 気に入るも気に入らないもないんだけどさ。これでベストではなくベターなの? みんな、得意って言葉に求めるレベルが高すぎじゃね?


「やっぱりお城の方が良かったのか?だぞ」


「いやいや、そんなことはありませんよ。あまりにも素晴らしかったので、驚いていただけです」


「そうなのか?だぞ」


「ええ、本当に驚いていますよ」


 それにしても、これどうやって隠してたんだ? 俺が狩に出かける時に隠されていた範囲は、もっと狭かったはずなんだが。やっぱり魔法とかあると、建設なんかもささっと終わるのかね?


「喜んでもらえて何よりだわ」


「ちなみに、あそこの湖にある船着き場みたいなものは?」


「船着き場よ。セリスちゃんがご主人さまの為に、是非って」


 まさか! また板切れ一枚の船旅? いや、船着き場だし、流石にそれはないか……ないよな?

 水路を街に張り巡らせようとしたら、船着き場は必須だろうし、まあいいか。


「ただ結構な広さがありますよね、これ」


 領地の三分の一くらいが屋敷になった気がするんだが。二分の一は女神像の作った湖と河だし、いきなり領地が狭くなったな。


「そうねえ、ちょっとだけ領地をはみ出してる部分もあるかも」


 うん、そうだねそんな感じはするね。これは早く領地を拡張しないとな。


「ソフィアさんが集めてくれた魔獣の核もありますし、早速領地を拡張しますよ」


「私達が見張ってるから、いたずらしてくる子もいないと思うけど、絶対はないし。そうしてもらえると嬉しいわ、ご主人さま」


「わかりました」


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


 ソフィアさんが暴走?した時ほどではないにしても、結構な数の魔獣がいたからな。今回はなるべくワンタッチするようにしたし、あれを全部狩ったなら、結構な数になるだろ。


 アイテム欄を開いてっと。おしおし、結構大きめの核もある。これだけあればそれなりの拡張ができそうだ。これを全部宝玉に全部捧げてっと。


 ……さてどうするか。


 魔獣転生ができる。



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私事で申し訳ないのですが、本業等多忙のため年内の更新はここまでとなります。


来年度は1/6を予定しております。

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