第109話 大漁ですが、帰るのが怖いです

 防壁の外に出る際、しっかりと身元確認が行われた。


「結構厳重なんだな?」

「はいです。昔から塩田に毒を投げ入れようとしてくる者が後を絶たないので、砂浜への立ち入りは許可制になっています」


「毒? そんな事したら塩が暫く採れなくなるのに、何で?」

「それが目的のようです。証拠はないですが、沿岸三国のいずれかが放った工作員だと領主さまは言っておりますです」


「ああ、この地を守るってことはそういう警戒もいるんだね。魔獣対策だけじゃ済まないって大変だね」

「はいです。強くて頭の良い領主さまじゃないと、この地はあっという間に攻め込まれてしまいますです」


『♪ ちなみにですが、今回ディアナに海岸線に簡単に侵入されてしまったことが問題になっているようです。S級魔獣に気を取られていた為とはいえ、それは言い訳になりませんからね』


 ナビーが言うには、毒による塩田への攻撃は空からよるものが圧倒的に多いのだそうだ。ドレイクやワイバーンのような飛行型の従魔に乗って特攻を仕掛けてくるのだとか。


 街から数十キロ離れた辺りの地点から至る所に物見櫓が建っており、探索魔法持ちの衛視が沢山雇用されていて監視網は万全にしていたはずだったのに……ということらしい。




 防壁内部に入ると、砂浜は活気に満ちていた。


 数キロに及ぶ刺し網は、どうやら地引網の要領で引き上げる仕様のようだ。


 なにかのアニメで見た、奴隷を無駄にグルグル廻らせる謎の棒のような巨大な巻き上げ機が海岸線よりかなり上に二台あり、それを各十人の屈強な男たちがグルグル回して網を巻き取っている。


*(添付:『奴隷を無駄にグルグル廻らせる謎の棒のような巨大な巻き上げ機』分かりにくいかと思い、イメージ画像を近況に貼っておきます)


 巻き上げ機から海岸線迄の間には、女子供を含めた漁民たちが総出で掛け声に合わせて網を手繰っている。


 かなり岸まで手繰り寄せられた網は狭まって、中の魚がバシャバシャと跳ね、白く飛沫が立っている。その網の外側を8隻の船が取り囲み銛を何度も打ち込んでいるようだ。


『♪ シャチたちも網の周囲で音波を出して、魚が網から逃げ出さないように協力しているようですね。本当に賢い子たちです』


 どうも銛は網を破られないように、鋭い刃物のような背びれを持った鮫を狙って駆除しているようだ。


「ディアナ! マグロが傷つかないように回収に行こう!」

「うん? 妾に乗って海上から回収するのかの?」


「うん。網が狭くなれば、サメと接触して傷が付くかもしれない。それにマグロは泳ぐのが止まった瞬間から熱を逃がすことができなくなり、身焼けしてしまって美味しくなくなるんだ。速攻で回収し、血抜きと冷却を行いたい」


「美味しくなくなるのはダメじゃ! ほれ主様、はよう乗るのじゃ!」


 ディアナはすぐに竜の姿に戻ってくれ俺を急かしてきた。


「ん! 私も行きたい!」


 暗部Aちゃんが行きたいと言ってきた。そういえば銛を撃たせてやると約束してたな――了承して、マグロ用に作っていた銛を持たせる。




 パシュ!


 俺の方は【ホーミング】を使っているので、マグロの頭の急所に一撃必中だ。すでに巨大なマグロを6匹確保している。今は目に付いた鮫退治メインに、大きなブリやハマチ、カツオなどを確保中だ。


 銛に【マーキング】することによって【自動回収】機能が使えることが分かったので、全ての銛にマーキングを入れ希少なミスリルを含んだ銛先も紛失することなく回収できている。


「これ面白い♪」


 無表情な娘かと思っていたが、今は可愛い笑顔を見せてくれている。


 最初銛先を10本渡していたのだがすぐに撃ち尽くし、追加を要求してきたのだが、遠慮気味に「ん……もっと撃ちたい……ダメ?」と可愛く言われたらお代わりし放題になっちゃうのは仕方がないよね。



 さて、網もそろそろ陸に上がるし、満足がいく程度には獲れたのでパイポさんの所へ向かう。パイポさんは仮設テントを張って日陰を作り、そこで皆に指示を出していた。アンナやララたちもここで待機してもらっている。


「アルペンハイム殿、獲った魚は解体しないですぐに凍らせるのですか?」

「ええ、一部の魚は解体場に持っていき、そこで血抜き処理された後に冷凍処理されますが、大部分はこの場で冷凍処理され、一旦地下の保冷庫に保管されます」


 血抜きの効果を知らないようなら脳天締め・神経締めも教えてあげようと考えていたのだけど、知らないわけではないようだ。そして、血抜きをされたものは貴族への贈答用に特別に処理しているのだとか……なんか特権階級ズルい。


「塩田を汚さないことが最重要なのです。オークなどの豚系魔獣や猪・牛・馬系の魔獣同様血抜きをしてから冷却した方が美味しいのは知っているのですが、それらをするには一度川縁にある解体場迄運ばないといけなくなります。手間暇をかけた分、販売価格も高くなってしまいますしね。庶民でもなんとか買える価格に抑えようとするとどうしても難しいところです」



 パイポさんと話している間に網はだいぶ巻き上がっていた。


 漁民たちは腰ぐらいまで海中に浸かり、波打ち際でバシャバシャ撥ねている魚を手網で掬って選別場へリレー搬送していた。


「へー、最後は手網で掬ってから魚種ごとに選別するんですね」

「殿下様、わしらでは魚が沢山入った網が重くてあれ以上は上げられないんですじゃ」


 漁師の長さんが教えてくれた。重くて上げられないし、無理に上げると網が破れてかえって魚も逃げられるのだそうだ。


 手際よく選別されている様子を眺めていたら、巻き上げ機を廻していた男たちがこちらにやってきた。


「王子様、サメの駆除助かったぜ! バケモンイカの解体は俺らに任せてくれ!」

「こら! 殿下様になんて口のきき方をしておるのじゃ!」


 長さんも大概だけどね……殿下様とか二重敬称で言ってるのは突っ込まないであげよう。


「長さん、俺に対しては言葉遣いとか別にいいですよ。でもまあ、貴族の中には怒りだす奴もいるので気を付けた方が良いのは事実だけどね。ところで、あのサメはどうすればいい?」


「サメは魔石が取れますです。身も淡白で意外と美味しく食べられますです。ヒレを干物にすると王都の料理人が高く買ってくれますですじゃ」


 フカヒレかな? 鋭利な部分を取り除けば食べられるのだそうだ。

 本来網引き後に選別に回る男たちが解体しに来てくれたようだ。


 指示された場所にでっかいイカ2匹とタコ1匹を取り出す。


「おおっ!」と一斉に歓声が上がり、男たちが群がって刃を入れ始めた。


 まず最初に魔石が届けられてきた。イカの雄が黄色い色をした雷系の魔石、メスが水色の水系の魔石。タコは青い色をした水系の魔石だった。魔石は3個とも頂いたのだが、ナビーに速攻で奪われた。


 魚の選別場に向かい、俺が銛で獲った魚たちも一旦すべて取り出して並べる。パイポさんと長さんに許可をもらいつつ、身幅のある脂ののった美味しそうなやつをどんどんインベントリに収納していく。長さんお薦めのやつだから間違いないだろう。


 海に入り手網で掬っている人は危険なようで、何人かが大怪我をして運ばれている。サメの背びれやマグロの尻尾で叩かれると、ギザになっている部分で深手を負う。エイに刺された人は毒をもらったようだ。


「そろそろ終わりが見えてきたようですね。大型魚は尻尾に縄を掛けて引き揚げます。目に付く大型魚がいなくなったら、ドレイク2匹に網を曳かせて陸に回収します」


「結構大掛かりな漁なんですね」

「この規模の刺し網漁はマグロなどの高級魚が大量に湾内に入り込んだときぐらいですじゃ。通常の漁は物見櫓から湾内外で鳥山を見つけたらシャチたちを使って囲むように網を刺し、最終的にそこへ追い込むような漁をしますです」


 ドレイクによって上げられた網の中には、カサゴやハタ系の根魚やヒラメやカレイ、カニが結構入っていた。


「あのカニが欲しいです!」


 どう見てもあれはタラバとズワイガニだ。毛ガニやロブスターのようなエビも入っている。しかもデカい。


「ルーク殿下、欲しいものがあればお好きなだけ持って帰って下さって良いのですよ」


 じゃあと、脳天締めをしてがんがんインベントリに放り込んでいく。袋の先端部分に行くほど目の細かいものになっていて、そこにはイワシやアジなどの魚や車エビのようなものまで入っていた。乱獲はしないそうで、網目の細かい部分に行くまでにほとんどの小魚は網の大きい部分から逃げるのだそうだ。重くなりすぎて網が上がらなくならないようにするためもあるようだ。


「エビ系はまた漁の仕方が違いますです。湾内を鋤の付いた大きな網かごを曳くと、エビや貝類が沢山入りますです。干潮時は子供たちが潮干狩りで獲ったりもしますです」


 潮干狩り良いね……ミーファの目を治したらみんなで来たいな。


 選別が終わり、箱詰めされたものから魔術師が凍らせている。エビや貝などは一度生簀に入れられ砂吐きが行われたのちに凍らされて出荷されるようだ。


 そうこうしているうちにSランク魔獣も綺麗さっぱり解体されてしまっていた。


 パイポさんは全て俺にと言っていたが、タコ足2本分、イカの半身分を雄雌混ぜてプレゼントした。


『ナビー、今この場にいる者たちにイカを配布するとしたら、どのくらいの量がいる?』

『♪ 一人にどれくらい配るかによります。仮に1㎏ずつとするなら、イカはほぼ可食部ですので半身分も要らないですね。ですが分け与える必要性がないです。この者たちに配るより、ガイルやゼノにプレゼントした方が宜しいのではないですか? 臨時の特別報酬を与えているのですし、今回の漁での収入も入ります。過剰に振る舞う必要はありません』


 それもそうかと考え直し、公爵家へ帰ることにした。


「アルペンハイム殿、そろそろ帰らないといけない時間になりました。次回来る際は事前にアポを取ってから訪問いたしますので、その際はよろしくお願いします」


「ええ、是非いらしてください。ルーク殿下、おかげさまでS級魔獣3体同時襲来というとんでもない事態を誰一人失うことなく乗り切れました。ディアナ殿も御助力本当にありがとうございました」


「うむ。妾は主様に従ったまでじゃ。じゃが、次来た時に旨いものを食わせてくれると嬉しいの」


 ヤメろ恥ずかしい! どんだけ食い意地が張ってんだ!




 ディアナに乗って公爵家に帰っているのだが、みなの笑顔が眩しい。特にララは食べた貝が気に入ったのか、ダリアちゃんと「ホタテって貝が一番美味しかったね♪」とか嬉しそうに話していた。勿論その様子は動画で保存だ。


 俺は公爵領が近づくにつれテンションが下がってきた。だってガイルのおっさん怖いもん!


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 お読みくださりありがとうございます。


 ご報告です。

2025年1月15日

双葉社 モンスターコミックスより

『転生先が残念王子だった件』のコミック6巻が発売されます。


 原作101話までのお話を、らた先生が漫画化してくださりました。

 原作通りカエルポーチを可愛く描いて下さっています!

 是非お手に取ってみてくださいませ。

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