幕間9
主が不在のクロガネ探偵事務所にて、真奈は漫画を読みながら、清水はソファーに横になって休みながらと、思い思いにクロガネからの連絡、もしくは本人の帰りを待っていた。
軽傷である真奈はともかく、清水は病院に戻って安静にすべきだとデルタゼロ(INアンドロイド)は主張していたが、断った。
クロガネが美優を救うためにたった一人で闘っているのだ。病院のベッドの上でのんびり結果を待つほど二人は浅い関係でも薄情でもない。
「……ここに来て、もうすぐ二時間になるか」
清水が腕時計で時刻を確認すると、真奈が漫画から顔を上げる。
「そろそろ連絡の一つくらい寄越しても良い頃合いよね……」
「だな……夜も明けてきた」
二人とも表情に疲れが滲み出ていた。佐藤の事務所襲撃未遂からほぼ丸二日、まともに休まず動いていたのだから当然である。
「……なぁ? 考えたくもないが、黒沢の身に何かあったんじゃなかろうな?」
パタンッ、と漫画本を閉じる音が響く。
「それは大丈夫っ。鉄哉なら大抵の修羅場は切り抜けられる」
どこか怒った様子で即答する真奈に、清水は肩を竦めた。
「あいつのこと、本当に信頼してんだなぁ」
「私が手掛けた特別製の義手もあるのだから、そう簡単に
「何か必殺武器でも仕込んでんの? ロケットパンチとか」
「発想が古いわね、嫌いじゃないけど。スパ□ボだと、割と威力高めだし」
「誰がゲームの話をしろっつったよ?」
「義手の詳細を部外者に教えるわけないでしょ。清水刑事も例外じゃないわ」
「ですよねー」
沈黙が舞い降り、気まずい空気が漂う。壁掛け時計の秒針が進む音がやけに大きく聞こえ、未だクロガネと美優の安否が解らない現状に落ち着かなくなる。
「あいつが帰ってきたら、その後どうする?」
清水が明るい調子でそう訊ねてきた。
「どうって?」
「今回の件は半分は俺たちから首を突っ込んだとはいえ、もう半分は黒沢の関係者に巻き込まれたようなものだろう。少しくらい対価を期待しても良いんじゃないか?」
「一理あるわね」
楽しそうな笑みを浮かべて真奈も乗ってきた。嫌な想像を抱くよりも、楽しい未来を語り合った方が精神衛生的にも良いだろう。
「俺は高い酒でも奢って貰おうかな」
「それじゃあ私は、一ヶ月は毎日三食とおやつを提供して貰って部屋の掃除もして貰おう」
「一仕事片付いたら家事を強制させるとか、鬼か。そこまで黒沢のことを気に入ってるなら、いっそ結婚しちまえよ」
「けっ!? いや、その、そこまでは……(ごにょごにょ)」
煮え切らない真奈に初々しさを感じる。
「知り合ってどれくらい経つんだ?」
「大体、三年くらい」
「あいつが探偵始めたのは二年くらい前だから、それ以前から?」
「……ええ、まぁ」
苦い顔をする真奈。ゼロナンバー時代のクロガネと接点があったことは既に清水も知っているとはいえ、本人や関係者不在の中、過去の一部であっても明かすのは気が引けた。
「昔のことを根掘り葉掘り訊く気はないから安心しな。そもそも奴のどこが良いんだ?」
「えっと、何となく一緒に居ると落ち着くというか」
「落ち着くかぁ? 定期的に何かしらのトラブルに巻き込まれるか、自分から突っ込んでいく男だぞ?」
清水の指摘を肯定するかのように真奈は苦笑するも、
「それでも」
譲らない。
「……まぁ、運命の人とか、その手の話はよく聞くわな」
「意外、そういうの信じるタイプ?」
「というか、経験者だ」
ひらひらと左手薬指に光る指輪を見せる。
「
「メタボ言うのやめろよ、今度健診するの思い出しちまったじゃねぇか」
『――ご歓談中、失礼するよ』
唐突に二人のPIDから第三者の声が割り込んだ。
「うわッ!? びっくりした! 突然誰よッ!?」
『――デルタゼロだよ。まずは朗報、クロガネと美優は無事です』
「本当かっ?」
二人の表情に喜色が浮かぶ。
『――はい。それと突然ですが、こちらの会話をご清聴ください』
「「?」」
意味が解らず二人は首を傾げるも、とりあえず言う通りにする。
すると間もなく、PIDからリアルタイム音声が聴こえ、二人は耳をそば立てた。
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