第10話「VSダークエルフ その2」
「ふんっ、口程にもないっ! そしてッ!!」
ダークエルフは振り向くと同時に、テレビに向かって矢を放つ。
一瞬で3本の矢が突き刺さり、バチバチと火花を散らす。
「いったーい!! 痛い、痛い!!」
テレビ画面からぬるぬるとユキエが飛び出す。
「死ね」
冷徹な台詞と共に射られた矢はユキエに突き刺さり、白いワンピースがじんわりと赤に染まる。
「ウソ、でしょ……」
ユキエはそのまま動かなくなる。
「これで全員か?」
2人の存在までしか確認していなかったダークエルフは、隠れている者もいないか耳を澄ます。
「ふんっ、もう一人いるようだな」
隣室へ続くドアを蹴破ると、そこには
ダークエルフはその女性の顔をしっかり見ようとしたが、いまいちハッキリとは見えず、まるで霞がかったようだったが、すぐにそんなことは気にしなくなり、弓を構える。
「そんな、2人が死ぬなんて……。わたしはどうしたら……」
「その声、さっき命ごいしていた奴か。美人なら俺様のペットにしても良かったところなんだがな。俺様をコケにしたバツだ。さっさと死ね」
正確に矢は心臓を貫き、女性はその場に倒れた。
「ふぅ……。ブリューナクを使ったせいか、いやにダルいな……」
ダークエルフは肩で息をしながら、呼吸を整えようと、無意識に腹部へ手が伸びる。
「ふぅ、もうこれで雑魚はいなくなったな。あとは――」
部屋の端で放心状態のシルバーウルフを睨みつけると、ゆっくりとした足取りで近づいていく。
「おめおめと敵に捕まり、あげく全面降伏か。狼の風上にも置けない駄犬がッ!!」
ダークエルフは足を振り上げ、強烈な蹴りをシルバーウルフに見舞った。
「貴様の所為で、俺様がわざわざこんな所に踏み込むことになったんだぞ! 汚らわしい異世界の建物に、この俺様がっ!! 貴様の血で洗い流せ! 駄犬がっ!!」
さらに蹴りを繰り出そうとした、その瞬間。
「は~い。ストップ!!」
ユキエの緊張感のない声が室内に響いた。
「なっ!? 貴様、殺したはず……」
「いや~、かなりいい夢を見させてあげようと思ってたんだけど、ワンちゃんを殴るのは許容できないのよね。モフモフは正義よ。その正義を犯すのは許されざることよ。だから、これで、おしまい」
ぽんっと手を叩き、ユキエがニコリと微笑むと、ダークエルフの景色が一転した。
「な、なぜ、俺様が部屋の中央に?? 駄犬も無事だし……」
ハッと視線に気づき、正面を見ると、そこには無傷の仮面の異形が佇む。
「な、なぜ、貴様が無事なんだ。確かに手ごたえはあった!! まさかっ!?」
ダークエルフの視線は今度は隣室へと繋がるドアに注がれる。
ゆっくりとその扉が開くと、そこから現れたのは絶世の美女、エリザベスがニタニタと美貌に似つかわしくない凶悪な笑みを浮かべている。
「おやおや、どうしたね? 幽霊でも見たようなヒドイ顔じゃあないか? いや、ヒドイのは顔だけじゃないのかな」
ダークエルフはエリザベスの指摘通り、顔を真っ青にし、混乱していた。
「どういうことだ。そいつも、そいつも、そいつもっ! 全員確かに手ごたえはあった! ブリューナクで貫き、弓で壊し、射殺し、蹴り飛ばしたはずなのに!?」
自身の腕が信じられなくなったダークエルフは確認するように両手を見る。
ぽたっ、ぽたっ……。
手から何か液体がこぼれ、床に弾かれ王冠を形作る。
「えっ?」
「あっ! 暗いから見えないか」
ユキエは楽しそうにそう言うと、部屋の電気が付く。
「なっ、ナニィィィィ!!」
ダークエルフの両手は鮮血に染まっていた。
「ま、まさか……」
ゆっくりと視線を下へ送ると、胴体には大きな穴が開き、両足には矢が突き刺さっている。
「う、うわああっぁあぁっぁぁ!!」
絶叫と共に、膝から崩れ落ちるダークエルフに、ユキエは覗き込むようにしながら話しかける。
「アタシが見える? アタシって残念なことに死に近い人しか見れないのよねぇ。もうすぐ死ぬか、たくさん死を見てきたかなんだけど、あなたは確実に前者ね。で、でぇ、これがアタシの呪いよ! どう? すごいでしょ!!」
ヒューヒューとなんとか呼吸するのが精一杯なダークエルフに構わず、ユキエはわざわざ説明を始める。
「冥途の土産に教えてあげるわ! うん、一回言ってみたかったのよね。この台詞! あっ、それで、アタシの呪いだけど、ビデオを最後まで見た人に幻覚を見せて殺すの! たぶん、あなたがちゃんと現実を見ていたのは、ブリューナクって唱えたところくらいね。そっからは全部、夢、幻覚、妄想よ! 一応、良い夢にしてあげたはずだけど、どうだったかな?」
「う、あ、あ……」
「うんうん、そうよね! すごく良い夢だったわよね。だから、今、最高に絶望してるでしょ!!」
今まで黒髪で隠れていた瞳が露になり、ダークエルフと視線が合う。
「あ、あああああああっ」
恐怖に駆られ、悲鳴をあげようとするも、すでにその力もなく、口から単音が漏れるだけになっていた。
「あなたは、アタシを3回、怒らせたわ。1つ、人の獲物を取ったこと。2つ、不意に携帯を壊したこと。3つ、皆がいるこの別荘を燃やそうとしたことよ。でもね。アタシは優しいから、3つ目は不問にしてあげるの、幸い被害は1つもなかったし。だから、あと1回、絶望してから死んで!」
「そ、そんな、こと、で」
ダークエルフはなんとか言葉を紡ぐが、それもユキエの逆鱗に触れた。
「そんなこと? そうね。そんなことであなたは死ぬのよ。でも今ので気が変わったわ。やっぱり3回、絶望して死んでね」
ふっとユキエが消えると、再びダークエルフの景色は一転した。
そこにはやはり、バーサスたちは死んで転がっており、勝利を手にした己がいた。
「俺様は勝っていたのか?」
「ええ、そうよ。いままでエリザベスの毒で幻覚を見ていたのよ」
ダークエルフのすぐ横には寄り添うように佇むユキエの姿があった。
「ねっ、アタシあなたとの約束通り、裏切って見殺したのよ。だから、あなたも約束を果たしてね」
「あ、ああ」
ダークエルフはユキエに促されるまま頷き、別荘のドアを開けるとシルバーウルフたちに宣言した。
「俺様はいまをもってこのユキエを伴侶とする。つまり、俺様の世界には戻らん! 貴様らウルフはこのあとは好きにしろ!! もし無理矢理連れ戻すというのなら、貴様らは俺様たちの敵だ! 掛かって来いと伝えて置け!!」
そう確かに口にした瞬間、再び、血だらけの自分に戻る。
「い、いま、たしかに」
「ええ、ええ、そうよ。確かに裏切ることを声明したわ。これで向こうにも味方は居なくなったわね。高貴なとか言っていたから、身分も没落するんじゃないかしら?」
ダークエルフは自然と眼から涙がこぼれる。
「さて、そろそろフィナーレね!」
ユキエは満面の笑みで最後の絶望へのスタートを告げた。
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