第27話二年後の冒険者生活

森の中。鬱蒼とした木々の間をまだ大人になっていない子供たちが歩いている。


「ウダルこの先に目標がいる。数は五だ。どうする?」


子供たちの中の一人であるアキラが仲間であるウダルに話しかける。


「問題ないだろ。予定通りに行こう」


ウダルの言葉にアキラだけではなく他の同行者たちも頷き各々が装備の確認をする。

彼らは今、冒険者組合の依頼を受けて魔物の討伐に来ていた。

メンバーはアキラとウダルの他は少女が四人。そのうち一人は幼馴染であるエリナだったが、ほかの三人は今回の依頼を受ける際に合同で受けた他のチームだった。正確に言うのなら合同での依頼を受けることに慣れるため同期である今回のチームとこの依頼を受けたわけだが。


「ーーにしてもよぅ、アキラの魔法ってほんと便利だよな。魔物の場所がこんな簡単に分かるんだから」

「色々制限もあるし使い勝手は悪いんだけどね」


合同チームの一人である剣士のキャリーが楽しそうに言うが、アキラはその言葉に肩をすくめて答える。

アキラの魔法適性は精神魔法であるためおいそれとは使うことができない。だがいざという時に使うことが出来ないのも困る。なので限定的ではあるが相手の思考を読むことで『周囲にいる生き物の場所が分かる』|超能力(・・・)として周りの人たちには教えていた。これならばアキラが魔法を使っていても違和感を持たれないし、何かあったときに他の精神魔法を使っても誤魔化しが効くかもしれないと、アイリスと話し合った結果だ。

実際に何か一つのことに特化した魔法の使い手というのはいる。異世界からやってきた勇者によって魔法とは別に『超能力』と呼ばれるようになったそれは、隠れ蓑とするにはちょうど良かった。

なので今は索敵としてのみ使っていたが、アキラが使用を控えているだけなので実際は魔法に制限などかかってはいない。

ちなみに話し合いの内容としては、母親が息子を諭すのではないく逆に息子が母親を諭す事になっていた。息子の安全を考え魔法に制限などかけずにどんどん使っていけというアイリスに対し使用を控えたいとアキラが説得するという構図だった。


一行が進みこれ以上近づくと気付かれると言うところで先頭を進んでいた合同チームの少女が振り返り制止した。

木々に隠れて見づらいがよく見れば少しだけ開いた場所に緑色の狼が居る。今回の依頼対象である緑化狼だ。

『緑化』とはいっても何も木を生やしたり植物を操ったりするわけではない。緑化狼は緑色の体毛をしているがその色は環境によって変わる。変わるといってもせいぜいが色の濃淡を変えることができる程度だがそれでもその効果は森の中では驚異的だ。

これから戦闘になることを理解したメンバーたちは頷きを返し各々予め決めていた位置に着く。

それを確認したウダルは武器を構えみんなに見えるように指でカウントをとる。

そのカウントが終わった瞬間ウダルたちから二本の矢が飛びうち一本は緑化狼の一匹を仕留めた。

もう一本はエリナが射ったもので、当たりはしたがうまく刺さらず傷を浅くつけるだけで終わってしまった。


「うおおおぉぉ」


先頭を駆け出したウダルが無傷の緑化狼と対峙し、他のメンバーもそれぞれが一対一で対応する。

アキラは自身の担当となる緑化狼を一太刀で斬り伏せ、他のメンバーが危なくなったらいつでも割り込めるように待機する。

ウダルはまだ倒せてはいないが危なげなく立ち回っている。合同チームの子達は少し危ないかもしれない。と剣を構えていると後方から矢が飛んできて緑化狼を仕留めた。

その緑化狼と対峙していた少女は矢を放った少女に軽く頭を下げるともう一人のメンバーの元に加勢に行った。こうなって仕舞えばあとは特に問題もなく終わりだ。



「よし!周囲警戒!まだ油断はするなよ」


程なくすべての緑化狼を倒した後ウダルがみんなに警戒を呼びかける。


「こっちには仲間はいないみたい」


弓を扱うエリナは今回ほとんど動いていないので周囲の索敵をする。


「こっちもいないよ」

合同チームのクララもエリナとは反対側を調べ敵がいない事を確認するとその旨を仲間達に知らせる。

クララは両親ともに狩人であり、その両親に教えてもらっていたので索敵は上手く、弓の腕もエリナよりも遥かにうまかった。仲間の援護として放たれ見事に刺さった矢は彼女のものだ。

索敵は緑化狼を見つけた時と同じようにアキラがやればいいのではないかという意見もあったが、これはあくまでも|合同(・・)のチームであってずっと一緒にいるわけではない。なので訓練がてらアキラに頼らずに調べる事となった。そうは言ってもアキラは念のために確認をしており、もしいたら知らせることになっていた。


「そうか。怪我した奴はいるか」


周囲の敵がいないことを確認出来たウダルは構えをとき仲間に話しかける。


「大丈夫です。問題ありません」


合同チームのメンバーで短槍と盾を持った少女、カーナが答える。

攻撃よりも防御に重点を置いた戦い方をする彼女は今の戦いでも怪我をすることはなかった。

だが守りを固め過ぎることがあり、攻撃を耐えることはできるが自分から攻撃することが出来ないという事もしばしば。


「誰もいねーよ。お前戦闘があるたびに聞くのな」


ウダルの言葉に嫌そうに返したキャリーは怪我こそないもののだいぶ疲れている様子だった。

彼女は同じチームのカーナとは違い防御が苦手だった。力は平均より強いので攻撃を当てれば魔物といえど下位のものなら倒すことができるだろう。あくまでも当たれば、だが。今回のように素早い獣系の魔物だと苦戦する事がある。

しかし、今回は一対一となったが本来人が魔物と戦う時は余程の戦力差がない限り多対一で戦うのが基本であり冒険者の初期の教育でもそう教えている。なのでその場合はカーナが止め、キャリーが攻撃し、クララがサポートするというなかなかにバランスのいいチームであった。



「確認は大事だろ。大した手間でもないし。それよりもこいつら早く持ってこうぜ」


確認は大事。これは既に何度聞いたかわからないぐらいに言われてきた言葉だ。冒険者の教育の時もだがアキラからもなんども繰り返し言われてきていた。


『例え相手が無力に見えても無抵抗でもどれほど弱そうに見えても絶対に油断するな。そして倒したからと言っても警戒を怠るなよ。常に何か起こるかもしれない。そう考えて動け』


何度も言われている言葉だがやけに実感のこもった声と真剣な表情で言われればウダルとて止める事ができなかった。その訓練として街の中でもアキラがウダルの背後から頭を叩くのを繰り返していた。

エリナも同じようにその言葉を何度も聞いていたし叩かれるのも見ていたが、それで自分の好きなウダルが死ぬ可能性が少しでも下がるなら、と止める事はなかった。

結果、どんな時であれ警戒するようになったのでいい事だろう。少なくとも油断してウサギの魔物に頭を貫かれるよりはよっぽど良い筈だ。



「三体は駄目ね。皮が傷が多すぎるわ」え


傷のないものは最初に弓で仕留めたものとアキラの一撃で仕留めたものの二体だけだった。


「どのみち全部は持てないんだからいいんじゃないか」

「そうだね。早くここから離れないと敵が増えるし」


ウダルの言葉に狩人であるクララも同意する。森の中で大量の血が出た場合それを狙って敵が来るからだ。

その提案に反対はなくアキラ達は綺麗な毛皮の二体だけを担ぎ、敵に見つからないようにその場を後にした。



「ふう。ちょっと休ませてくれ」う


血の匂いをさせたまま森にとどまっていればすぐにでも魔物達に狙われてしまうので森を出るまで獲物を担いで歩きっぱなしだったウダルは森から少し離れた位置で休憩を提案する。


「なんだ、だらしない。男ならもっと頑張れよ」


もう一匹の獲物を担いでいるキャリーがウダルを笑う。

持って帰ってきた獲物も二体なのでそれぞれのチームで一体ずつ運ぶことになった。アキラ達のチームは最初ウダルで途中からアキラが運ぶ筈だったのだが、もう一匹を運んでいるキャリーが交代していないのに男の自分が交代なんか。と意地を張ったせいで結局、交代することなくここまで来ることになったが流石に限界のようだった。


「お前はもうちょっと女らしくしとけよ。『キャリーちゃん』」う

「てめぇ、喧嘩したいんならそう言えよ。受けてやるぜ」き


同年代の男よりも力が強く男勝りなキャリーは周りから「名前が可愛らし過ぎる」「本人と名前が合ってない」と笑われてきたのでその名前で呼ばれることを嫌っている。

もちろん名前を呼ばなくてはならない時に言われたとしても仕方ないと思っているが、今のようにからかうようにわざと呼ぶのは許せなかった。

だがここはまだ街の外だ。見える範囲に敵の姿は見えないとは言っても気を抜いて良いわけではない。

他のメンバー達もここまで歩き通しだったので疲れてはいるが2人の仲裁をするためにさらに疲れることになった。



「よう、大量だな」


ウダルとキャリーの喧嘩からは何事もなく街までたどり着くことができた一行は街の門を守り、出入りを管理している門番から声をかけられた。


「まあな。私たちにかかればこの程度余裕だぜ」

「ハハッ、そうかい。まあ気をつけておけよ。調子に乗ってると簡単に死ぬぞ」


途中の休憩の後も交代することなく獲物を担いできたが未だ元気な様子を見せるキャリーは門番にそう返す。

そんなキャリーに門番は笑って返すが途端に真面目な表情になって警告する。

何年も門番として勤めていると狩りに出て行った奴が戻ってこないなんて奴はザラにいる。特に今のキャリーのように調子に乗っている奴は呆気なく死んでいく。それを知っているからこその親切心だったが、キャリーは「自分は違う」と真剣に聞いてはいないようだ。

ウダルの持っていた獲物は現在はアキラが持っているので元気は戻っているがその事を普段からアキラによって刷り込まれているので黙って頷いていた。


門を後にして冒険者組合に行く一行。組合に着くとまだ夕方前なのでさほど混んでいないが、ちらほらと他の冒険者の姿が見える。彼らは情報収集や他の冒険者達とのコミュニケーションを取っているもの達だ。どんな些細な情報でも持っていれば使えることがあるかもしれないし、今は未熟でも将来は凄い人物になる可能性もある。そんな人物が駆け出しの時に恩になったと感じれば色々と役に立つので、そういった新人とのふれあいはよくおこなわれているのだ。中にはそれにかこつけてただ単に怠けているものもいないわけではないが。


依頼完了の報告のためにアキラ達は受付に向かう。本来はリーダーが一人でいくのだが今回は合同で受けた依頼なのでチーム全員で向かう。


「お疲れ様です。こちらは買取でよろしいですか?」

「はい。お願いします」


これで依頼は終わりだがまだやることが残っていた。

アキラ達は受付の横手に設置されていた獲物の買取場に行き持って帰ってきた緑化狼を精算する事でやっと本当の意味で今回の依頼を終えることができた。


「よっし。じゃあこれで今回の依頼は終わりだな」き

「今回はありがとうございました」か

「いや、俺たちもいい経験になったよまた機会があったらよろしく頼む」う

「はい。その時はよろしくお願いします」か


二つのチームの合同依頼が終わり、お互いに握手をして別れる。ウダルがカーナと握手をした際にエリナの雰囲気が変わったような気がするが、一瞬で元に戻ったので誰も気づくことはなかった。アキラ以外は。



「よし。報酬も入ったし打ち上げでもするか!」

「何言ってんのよ。この程度の報酬で毎回打ち上げなんかしてたらすぐにお金がなくなるわよ。もっと計画的に使いなさいよ」

「うっ、まあそうか…」


キャリー達とは別れアキラ、ウダル、エリナの三人になるとウダルが提案するがすぐさまエリナに窘められる。


「ははっ。あと何年かすればもっと稼げるようになるさ。…まあ調子に乗りすぎなければ、だけど」

「わかってるよ。油断すればウサギであっても殺される。だろ?何回も聞いたよ」

「それ私も聞いたけどやけに実感篭ってるわよね」


実際にアキラが体験し何度も殺されているので実感がこもっているのも当たり前だろう。

だが女神のことは言っても試練の事までは言っていないので2人は不思議がっていた。


「まあ気をつけるに越したことはないだろ?」

「そうだな俺も死ぬつもりはないし」


アキラが適当に誤魔化すとウダルはその言葉に頷きを返した。

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