第二章 元勇者は腕が鈍っている 3
「ところで、シオン様」
儀式の片付けを始めようとしたところ、アルシェラが口を開いた。
「この
「ん? いや……別に血液である必要はないな。僕の肉体の一部や、体液でも代わりにならないことはないと思う。ただ、一番効果的で手っ取り早いのが血液で──」
「体液!?」
なぜか、アルシェラが異様に食いついた。
「……た、体液といっても、汗や涙……あと、
「シオン様。体液は──他にもあるのではないでしょうか?」
興奮を隠しきれない顔で、アルシェラは言った。
「他に、体液?」
「その、殿方の……ええと、なんと言いましょうか。私の口から直接お伝えするには抵抗があると言いますか……できればシオン様から激しく求めていただきたいと言いますか」
「ふむ……?」
まるでピンと来ないシオン。
とは言え、彼も全くの
ただ。
それを女に飲ませるという発想が、12歳の少年の頭では、まるで思いつかなかったのである。
「よくわからないが……アルシェラはそっちの方がいいのか?」
「えっ!?」
シオンがまっすぐな瞳で見つめると、アルシェラは動揺を
「い、いいと言えばそうなりますが……ええと、私も、誰のものでもいいというわけではないのですよ? 敬愛するシオン様のものであれば……喜んでこの身に受けたいというだけで」
「ふむ。ならば、次からはそれにしよう」
「ええっ!?」
さらに動揺するアルシェラに、シオンは優しい目をして言う。
「いくら儀式とは言え、お前達に僕の血なんかを飲ませることを心苦しく思っていたところだ。なにか要望があるなら、できる限り尊重してやりたい。アルシェラには、いつも世話になっているからな」
「……っ!? ま、
無垢な笑顔で、純然たる善意を語るシオンを前に、アルシェラはまるで、聖なる光に目が
その後、凄絶なる
「……い、いえ、今まで通りで構いません」
と、なにかを諦めたような声で続けた。
「いいのか? なんだか、含みのありそうな反応だが……」
「ええ、問題ありません……ただ、シオン様の純粋さを前にして、
羞恥が
しかしそれから思案顔となり、
「……そうよね。なにも焦ることはないわ……そう、シオン様は、今はこのぐらい
ぶつぶつと独り言を始めた。
「だ、大丈夫か、アルシェラ?」
いろいろと心配になって声をかけるシオンに、
「はいっ、問題ありません」
と、アルシェラは上機嫌に
「なにも心配はいりません。いずれしかるべき時が来たならば、このアルシェラが責任をもって、この身の全てを存分に活用してお教えして差し上げます。どうぞ楽しみにしていてくださいませ」
謎めいた言葉を述べながら
聖女のように優しい笑顔でありながら、どうしてか悪魔の
儀式を終えた後、シオンはフェイナを探していた。
(誰でもいいと言えば誰でもいいんだけど、やっぱりあいつが適任だろうな)
今日のフェイナの仕事は庭掃除だったはずだが、屋敷の外にはいなかった。屋敷内に戻って彼女の部屋へと向かう。
扉をノックすると、
「はいはーい」
と返事があった。自室に戻っていたらしい。
「僕だ。開けてもいいか?」
「シー様? どうぞどうぞ」
許可をもらい、扉を開く。
そして──仰天した。
目の前にいたのは、半裸の美女だった。
着替えの途中だったらしく、メイド服はベッドに投げ置かれている。上下の下着以外、なにも身に着けていない。
半裸の姿を目撃されたにもかかわらず、フェイナは恥ずかしがるどころか、
「いっや~んっ。シー様のエッチ~」
と
「~~っ!?」
シオンは慌てて扉を閉める。
「な、な、なにをやってるんだフェイナ!?」
「なにって、庭掃除して汚れちゃったから、着替えてたんだけど?」
「だったらそう言え! 『ちょっと待って』とか言え!」
「大事な大事なご主人様を着替え程度のことで扉の前でお待たせするのは心苦しいなあ、と思いましたので~」
「くっ……」
扉越しのからかうような声に、シオンはなにも言えなくなる。
「もう、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。私はシー様に着替えを見られるぐらい、全然平気なのになあ」
「お前が平気でも僕が気にするんだ!」
「へぇー? なんでなんで? エッチぃ気分になっちゃうから?」
「~~っ!? ……も、もういい! もうお前なんか知らん! ずっと部屋に籠っていろ!」
「わっ、ごめんごめん! すみません、シー様。ちょっとふざけすぎました」
反省した声に足を止める。
「私になにか用があったんでしょ? もうちゃんと服着たから、入ってきて大丈夫だよ」
「……まったく、お前という
ぶつぶつ
そして──仰天した。
目の前にいたのは、先ほどから全く着替え状況が進捗していない、半裸姿のフェイナだった。
「いっや~んっ。シー様の──」
先ほどと同じ
「なにがしたいんだお前は!?」
「いや、もう一回ぐらい繰り返すのが、お約束かなあ、と」
まるで反省した様子のない声に、シオンは天を仰ぐ他なかった。
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