10話~あまり使いたくない手

それから1週間が経った。結局、調べようと思ったのだがいかんせん手がかりが少なすぎてどうしようも無かった。途方にくれた俺たちはとりあえず今後の方針を考えるために聖玉学園のとある人物のところに足を運んでいた。


「どうするの?」


柊が聞いてきたので俺ははあ、とため息を吐いて。


「いや……これは最終手段だからな……。あまり使いたくない手だから。と言っても手がかりは無いことは無いんだ。」

「本当に?」

「ああ、無いことは無い。ヒントは4年前だ。」


柊はうーんと考えると少し暗い顔をしてこう答えた。


「4年前……。渋谷の大抗争?」

「そう、4年前辺りからの記憶が無くて、1番古い記憶だとマスターの店に流れ着いた記憶だ。しかもそこは渋谷。繋がってるはずだ。」


そうして着いたのは聖玉学園の歴史科の職員室。ここにいるあの教師ならよく知っているはずだ。今は夏期講習の準備でこの部屋にいるはずだしな。柊は職員室の前で待ってもらって俺はドアをノックして。


「失礼します。」

「……ふん、まさかお前がこの部屋に来るとはな。どういう風の吹き回しだ?須藤?」


そこに居たのはルートヴィーゲ・玉祖・ヴァイン。この学校の歴史科の教師と戦術実習担当教師だ。左目に眼帯、赤い前髪の顔立ちで目付きが鋭く、一切の隙がない。

正直に言う、このルートヴィーゲが俺は苦手だ。いかんせん俺が悪いとはいえ、この授業はサボれない。サボったら後で確実に殺られる。という訳で頑張って出ているのだがいかんせん他の先生から情報が回ってるらしい。授業中マークされてる感がヤバい。

そんな先生を睨み返すと。


「俺でも来ることはありますよ。数学科の職員室とか。」

「ふん。それは大抵、西川の授業の単位が足りないから行ってるだけだろ。」

「ご存知なんですね。流石は現代文の教師ですね。」

「……喧嘩売ってるのか?」

「……すみません。それで本題です。」


俺はやすめの姿勢を取ると。


「実はとある事情で渋谷大抗争について調べています。時事に詳しいルートヴィーゲ先生なら何か知ってると思いまして。」

「渋谷大抗争?4年前のか?」

「はい。」


そうするとルートヴィーゲは訝しげに俺を見ると至極当たり前のことを聞いてきた。


「なんでそんな物を調べているんだ?渋谷大抗争なんて武闘派のギャングが争った抗争だが……。」

「そうです。夢幻派と防衛派が争った抗争です。それについて……」

「ダメだ。」


そう言ってルートヴィーゲはじろりと俺を睨むと机を軽くトントンと指で叩く。


「4年前とはいえ、普通の生徒においそれとギャングの抗争を教えると思うか?」

「……。まあ、確かに。普通は教えませんよね。」

「そういうことだ。」

「……。」


俺はぐっとこぶしを握って失礼しました。と言い、部屋を出ていこうとしたところで。


「おい、少し待て。まだ教えないとは言ってないぞ?」

「え?」


俺は慌てて振り向くとルートヴィーゲは椅子から立ち上がる。そうして珍しくはあ、とため息をついて。


「お前、渋谷の蜃気楼で働いてるんだよな?」

「まあ、そうですけど。」

「……。

うちの身内が世話になってるお礼だ。後で戦術研究室に来い。確かデータがあったはずだ。」

「ありがとうございます……。って身内?」


自分は首を傾げるとルートヴィーゲは首を振って。


「神凪と東子だよ。いつも世話になっているみたいだからな。」

「ああ……。」


おそらく国内ビッグネームカップルである彼女達、日本国皇女である天孫東子と神凪雄二が蜃気楼に来ることは知っていた。まあ、よく来るのは神凪の方だが、たまに世間話するくらいは仲は良かった。最初は驚いたがマスター曰く、「私たちはこういう時は何も言わないの。快適な空間を作るのがこの喫茶の在り方よ?」と言っていたので俺は周りには話していない。柊にも言ってないくらいだ。

俺はこちらこそ、と言うと。


「大丈夫ですよ。こちらこそいつもご贔屓ありがとうございます。それなら少しその件でお願いがあります。」

「なんだ?」

「神凪にパンケーキ代のツケが残ってるって言ってください。俺だとついついかわされてしまうので。」

「分かった。今度言っておこう。」


俺はそう言ってもう一度失礼しましたと言うと歴史科の職員室を後にした。


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