第35話 話し合い・前編

No35

話し合い・前編





 現在、ギルドの大会議室にはギルドマスター、副ギルドマスター、総合部のアンナさん、フロア長のフローラさん、俺、マダラが集まっていた。


「では、これよりフロア長フローラから報告された案件について冒険者セイジロウ及び、その従魔マダラに事情説明と今後について話し合いをします。進行はわたし、総合部のアンナが行います。まず、セイジロウからの説明を」


 俺とマダラの今後に関わる話し合いが始まった。


 事の発端とこれまでの経緯、先日冒険者から報告されていた新種の魔物についての目撃、マダラについての契約内容などフローラさんに話した内容を更に細かく詳しく報告した。


「今、報告した事について虚偽はありませんね?」

 俺は、自分の目の前に置かれてる水晶みたいな物に手を触れながら話をしてる。この道具は魔導具の一種で相手の虚偽を見抜く道具だとアンナさんから説明された。


 各冒険者ギルドに一つは保管されていて、凶悪な犯罪者、尋問が必要とされた人物にはギルドマスターと副ギルドマスターの許可が出た場合のみ使用される。使用された質疑応答をギルド本部に書簡として報告が強制されている。


「はい、アンナさん。虚偽はありません」

 水晶の魔導具に変化はなかった。虚偽があった場合は赤色に、真実なら特に変化はない。


「ギルドマスター、どうしますか?」

 と、アンナさんはギルドマスターに話を振った。


「ふむ....セイジロウだったな。俺がギルドマスターのダンだ。俺は、別にどんなヤツが冒険者になろうと構わない。冒険者ギルドに害を与えなければな....今の話からするとセイジロウとその従魔マダラには冒険者ギルドとハルジオンの民に危害を与える意思はないと判断するがどうだ?....スミス?」


 副ギルドマスターのスミスさんが答える。

「そうですね、ギルドマスター。わたしも同じ意見ですが.....信用するには早計かと思います。その従魔マダラの脅威が不透明です」

 どうやらスミスは、今の話を聞いて俺よりマダラを脅威と感じてるようだ。


「まぁ、確かにな....マダラを見れば誰でも思うだろうな。安全だと言った所で信じられんだろう」

 と、ギルドマスターのダンさんがとりあえずの肯定をしめした。


 マダラは現在、大会議室内で姿を現している。行儀よく? 寝転がって待機してるが、体高二メートルオーバーに全長は五メートルオーバーだ。体毛は名前と同じ黒と白の斑模様で、足は六本あり顔は狼や獅子の顔に似ていて威圧感もあり、端から見ると凶悪な魔物だと見られても仕方ない姿だ。


「でも、ちゃんとセイジロウさんの指示、または命令には従います。ですよね、マダラ?」

 フローラさんがフォローに入ってくれた。


『ワレはセイジロウの召喚獣にして主だからな。当然だ』

 と、この場にいる全員に思念を飛ばした。

 この思念を飛ばす能力もすでに全員には説明してあるので驚きは小さいが、やはり直に体験するとフローラさん以外の人は少なからず表情にあらわれた。


スミスさんが答えた。

「.....それは聞きました。ですが、マダラ自身の全ての行動を縛りつけるのには無理があるのでは?」


「私はマダラの行動を縛りつけるつもりはありません。すでに生活に関する話し合いをマダラと行ってます。私の害となる行動も伝えてあります。私とマダラに害をなさない限りは安全だと進言します」

 俺は、魔導具に触れながらスミスさんに向かって話した。当然、魔導具に反応は無い。


「....だとよ、スミス。で、実際はどうなんだ、セイジロウ。マダラがもし暴走するような行動またはセイジロウの命令無視をした時に止めるすべはあるのか?」

 ギルドマスターのダンさんは俺の顔を見ながらそんな質問をしてきた。その質問に対して答えたのが、マダラだった。


『そんな事は起こらん。と、話した所で信じられんのが人という種だな。なら、見せるのが早かろう。セイジロウよ、今からワレの意思でフローラを全力で殺そうと行動す。が、セイジロウはワレに命令しろ。フローラに害を成すなと。すれば、主と従の関係に反したワレは縛される。それが、問いの答えになるだろう』


 俺は驚きつつマダラに答えた。

「そんな....いきなりな事だな」

『セイジロウに対して嘘は言わん』


「そうかい。それが嘘なら俺の人生は終わりだな.....フローラさん、巻き込んでしまいました。あとで、甘味をおごりますからね」

 それを、突然聞いたフローラさんは驚いた顔をしたが、俺の顔を真剣な目でみつめて小さく頷いた。


 まだ俺の従魔になってから数日しか経っていないマダラだが、感覚的にマダラとはずっと長くいるような信頼が俺の中にあった。まだ、互いを知らないが不思議と信じられる。


 と、一方的にフローラさんに言った。

「命令だ。フローラさんを殺すなマダラ!」

 と命令するがマダラは身を起こし俺の命令を破ろうと威圧を出しながら、フローラさんに向かって襲いかかろうとした瞬間、マダラの周囲の空間から数多の鎖が現れマダラを縛りつけた。


 マダラは必死に鎖から逃れようと力を込め、さらに威圧を剥き出しにしながら抵抗するが鎖は外れなかった。ほんの数十秒ほどするとマダラは力を失うように床に倒れた。

『セイジロウ、ワレの縛をとけ。これは、主にしか解けん』


 俺はその光景に驚き見てるとマダラから思念が来て我に返った。マダラの威圧、殺気は物凄く身体中から冷や汗が溢れていた。


「あっ........あぁ、分かった。マダラを縛る鎖よ、主が命じるマダラを解放しろ!」

 すると、マダラを縛りつけていた鎖は音もなく消えていった。残ったのは、床に倒れているマダラだけだった。


 俺は床に倒れたマダラに近づき声をかける。


「マダラ、大丈夫か?」

『大丈夫じゃ、だが体は動かん。しばらく、このままじゃな。それより、フローラを気にした方がよい。殺気は少しだが威圧は出したのでな。気を失っておるぞ』


「えっ? あっ! フローラさん!」

 すぐにフローラさんの元に駆けつけた。フローラさんは座っていた椅子から落ちて床に倒れて気を失っていた。アンナさんもすぐに駆けつけてフローラさんの容態を見てくれた。


「大丈夫よ、ただ威圧と殺気に耐えれなくて気を失っただけよ。しばらくすれば意識を戻すわ」

「良かった....あとで怒られますから、フォローしてくださいね」

「いいわよ、フローラに出した同じ条件ならね」

「分かりました。よろしくお願いします」

 とフローラさんの事はアンナさんに任せてマダラの元に戻った。すると、ダンさんから声が掛かった。


「......ったく.....現役の頃でも数回しか感じた事がない程の威圧だったぜ。.....危うく手が出ちまいそうだったぞ.....さっきのがスミスの問いに関する答えかマダラよ?」


『そうだ。主の命令に反するとこうなる。あの鎖は、主の命令以外では消えんし、物魔もきかん。さらに、ワレの力も強制的に奪う。回復するには主の持つ魔力が必要で、それ以外の回復はない。これで分かっただろう?ワレは主の命令に反すればどうなるかを』


「ああ、理解した。さらに、マダラの力もな.....全部ではないが....ここの誰よりも強い。そして、本当の脅威はセイジロウだとな」


 えっ? なんでそうなるんですかね?ちゃんと説明しましたよねギルドマスター....


副ギルドマスターのスミスさんも改めて肯定した。

「.....確かに、ギルドマスターの言う通りですね。本当の脅威はセイジロウです。ですが、わたし達に危害を加える意思はないとも説明してます。虚偽もありませんよ」

「わかってるよ、スミス。さてと.....どうするか? スミスはどう思う?」


「....正直なところ手に余ります。それに、問題はまだあります。あの遺跡の地下の術式、マダラ自身の力、召喚魔法自体の脅威、考えれば考える程に頭がいたくなりますよ.....まったく...」

「召喚魔法ってのはマダラのような従魔ばかりじゃなかったよな、スミス?」


「えぇ、ギルドに登録されている従魔は主より力は弱いですし命令も破りません。さらに、意思もマダラのように伝える事はあまりできません。せいぜい、拒否の有無を行動で示すぐらいですね」


「セイジロウがマダラを召喚したあの遺跡については何かわかってるのか?」

「いえ、今までわかってるのは古い遺跡ぐらいとしか....すでにわたしが生まれた時にはありましたし、興味もなかったので」


「まぁ、そうだな。ギルドとしても調べる程の価値もなかったからな....俺も行ったことはあるが別にただ古い遺跡だけだったからな....」


「セイジロウとシグリウスのメンバーがギルドに報告していましたが、まだ本格な調査をしてません。これから調査隊を派遣しますが、脅威度が分かりません」

「だよな、マダラみたいなヤツが召喚されたら街の二つ、三つは簡単に滅ぶしな」


 だってよ、マダラ.....ここは黙するのが吉と判断してただ聞き役に徹する。ついでに、マダラの体を撫でながら俺の魔力をマダラに送ってる。マダラの体を回復するには、俺の魔力でしか出来ないと言ってたからな。


「それで済めばいいですね。それよりも、召喚魔法を調べなくてはなりません。もし、セイジロウがしたような事で召喚魔法を行えば......」

「召喚魔法ねぇ.....」


『あれは他の者には無理だろう。ワレを召喚したのはセイジロウだから出来たのだ。この世界の者に出来ないとワレは考えてる』

 と、ここでマダラがダンさんとスミスさんの話に割り込んだ。


 えっ? マダラ、ここで口を挟むの?ちょっとは空気を読もうよ....黙ってられないの?


『セイジロウは【陽の民】でワレはセイジロウの守護者じゃ。おぬし達が言う召喚魔法ではワレのような存在を呼ぶのは無理とは言わぬが出来るとは思わん』

「.....ヒノタミってなんだ? それにセイジロウだから出来たとは?.....聞く事が増えたな。セイジロウ? んっ?」


 マダラが余計な事を言うから....大人しく寝転がっていてくれよな。


 はぁ.....溜め息しか出ない....異世界ファンタジーってこんなのだっけ? 違うよね? 俺が知ってる異世界ファンタジーはこんな面倒とかなかったよ? もっと気楽で調子が良くてご都合主義が満載だったよ?

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