第4話 ハルジオンと冒険者ギルド

No4

ハルジオンと冒険者ギルド





 俺がたどり着いた街はハルジオン。


 初めての異世界、初めての冒険者ギルドへと足を踏み入れた。


 冒険者ギルドの中は思った通りたくさんの人で溢れていた。冒険者としての仕事が終わり、その稼ぎで酒や飯を食べている人達で併設されている食事処は客で埋まっていた。


 俺はそんな冒険者達を横目で見ながら、冒険者ギルドの受付らしい場所へと向かっている。

 受付カウンターは全面に鉄の柵が職場を囲んでいた。強盗対策なのか、暴力的な冒険者からギルド員を守る為に作られたのかは知らないが、前の世界では考えられない仕様だ。


(ずいぶんと厳重な事だな...そんなに物騒なのか冒険者ってのは....まぁ、常に槍やら剣やら、武器を装備してるんだ、それぐらいの対策はとるか...魔法を使われたらどうするんだ?)


 そんな事を考えつつ回りを見ながら受付カウンターへと進んだ。


「失礼します、こちらで冒険者登録は出来ますか?」

「はい、こんばんは。こちらで登録は出来ますよ。本日は登録でいらしたのですか?」


 見た目からして若い受付嬢に声をかけた。見た感じは10代後半から20代前半で可愛らしい顔立ちをしていて、青みかかった髪色で左の肩口で長い髪を一纏めにして胸元に垂らしている。


 瞳の色は薄い水色の瞳で髪色と相まって少しだけ見惚れてしまった。


「あっ、は、はい。実はこの街に来る時に荷物を失くしてしまい、身分証も失くしてしまったんです。それで、その為の登録をお願いしたくおもったんです」


「そうだったんですね、大変な思いをしたんですね。無事にとは、言い過ぎですが街につけて良かったですね.....では、早速登録をしてしまいましょう。仮の身分証はお持ちですか?」


 俺は仮の身分証とその時に聴取され、その内容を簡潔にまとめ書きされている紙を受付嬢に渡した。


「では、確認しますからしばらくお待ち下さい」


 受付嬢は手渡された資料を読んでいく。


「.......えっと...セイジロウ・カンバヤシさん? でよろしいですか?」

「はい、そうです。自己紹介が遅れましたね。セイジロウ・カンバヤシです」


「はい、私はアリーナと言います.....それで、セイジロウさんは異国からの旅人となっていますが.....ニホンとはまた聞きなれない国なんですが....」


「そうですね、小さな小国なんであまり知られていない国ですかね。知識を深める為に見聞の旅をしにきたんですよ」

「そうですか....年齢が32才とあるんですが....」

「はい、その通りですね」


「若く見えますね....(私と同じくらいかと思ったわ....)......それでは、何か特技や使える魔法はありますか?最低限で良いので教えて頂けると助かるんですが....もちろん、秘密なら無理に聞きませんよ」


「そうですね、身を守る特技はありませんが簡単な計算と読み書きが出来るぐらいですかね....ただし、出身国のと付きますが」


「そう....ですか(う~ん...ちょっと上司と相談した方がいいかな?...出身はあやふやだし、身を守る特技や魔法も無しなのに、計算と読み書きが出来るのは....怪しいな)......分かりました。では、登録業務に入りますので少しお時間頂きます。あちらの隅にあるベンチで少しお待ち下さい」


 と、言われ受付嬢は奥へと向かい、俺は隅のベンチに座った。


 あの反応からすると、怪しまれたか?....まぁ、確かに怪しいのは確かだな....自分達の知らない国から旅人が他国のギルドで登録をしようとしてるんだ。この国の立場がどんな感じで世界の情勢がどうなってるかは知らないが、明らかに不振人物だからな...


 俺は登録業務が終わるまでこれからの展開に予想を立てつつ、この後の行動を頭の中で考えていた。


「セイジロウさん、よろしいですか?」

 と、考え事をしてると名前を呼ばれ受付カウンターへと向かった。


「はい、登録は出来ましたか?」

「その事なんですが、上司が改めてお話がしたいとの事なんですが?どうでしょうか?」


「何か不備があったのですか?一応、街に入る前に門番との事情聴取は済ませてますし、資料もお渡ししましたが....」

「はい、資料の確認はきちんと行いました。こちらとしては、もう少し詳しくお話を聞きたいとの事です。お話を聞いた後に登録をさせていただく事になると思います」


 やはり、怪しまれたか...ここで断るのは下策だな...今はこれを上手く乗りきらないと生きていく手段が失くなるな...


「わかりました、では上司の方とのお話をお受けします」

「そうですか!....では、個室を用意しましたので案内しますね....あちらの扉にお越しください」


 俺は、受付内部を守っている柵に備え付けられている扉に向かい、アリーナさんに扉を開けてもらい内部へと入った。近くにある個室....テーブルとソファが用意された6畳程の室内に案内されソファに腰かけた。


「では、お茶の用意と上司を呼んできますので少しお待ち下さい....申し訳ないんですが入口には警備を付けさせて頂きます。これは、業務の規則になりますからご理解下さい」


 アリーナはお茶の準備の為に部屋を出ていった。


 さて、どうしたもんか....門番のサリムさんに聞かれた事をさらに詳しく聞かれるんだろうな....どう答えるか....いっその事、本当のこと言うか?


 頭が可笑しいと思われるか....虚偽申告と不法入国で逮捕....斬首とかされるのか....奴隷落ちか.....さっそく、人生詰みか、せっかく異世界ファンタジーなのに!


 これがまだ日本なら情状酌量や情に訴えて誤魔化せるが.....部屋から逃げるにしても、門番に鉄格子でほぼ無理だし、武器も無いし....下手に逃亡しようなら斬り捨てられる可能性は高いしな.....


 思考がマイナスに傾いていくなかで、扉にノック音が鳴った。


 コンコンコンっ!


「はい、どうぞ」

「お待たせしました、お茶の準備と上司を連れて参りました」


 と、アリーナさんとその上司と思われる女性の上司が現れた。

 俺は、その場ですぐに立ち上がり姿勢を正した。


「あぁ、そんなに畏まらなくて平気ですよ。まずはお掛けください」


 受付嬢のアリーナさんは手早くテーブルにお茶を用意すると部屋を出ていった。


「さて、自己紹介からですね。私はこの街の冒険者ギルドのフロア長を任されているフローラと言います。ちなみに、ここは冒険者ギルドのハルジオン支部になります。街の名がハルジオンですからそのままですね」


「自分は、セイジロウ・カンバヤシです。見聞を広める為の旅人です」

「資料は見させてもらいました、セイジロウさん? とお呼びしても?」


「えぇ、はい。敬称はお任せします....なんと及びすればいいでしょうか?」

「あっ、あぁ、フローラでかまいません。そこまで地位と権力がある訳じゃないですから」

「わかりました、ではフローラさんと呼ばせて頂きます。女性に呼び捨ては失礼ですからね」


 冒険者ギルドのフロア長を勤めるフローラは、20代半ば程の年齢に見える美人秘書と言っても過言ではない美しい女性だ。


 紫色の髪は頭のうしろでハーフアップにされ、顔立ちは整っている。少し切れ長な目をしてるが、目元にある泣きホクロは色気を誘うのに一躍をかっている。


 顎のラインはスラッとしており、少し厚い唇は艶やかな色をしていて、その唇の柔らかさを体験したい....


 挨拶の時に確認した体型は、完璧とも言える。豊満な胸、細くくびれた腰、柔らかそうな尻、さらに、そこから伸びる美脚。娼館にいる娼婦よりもフロア長のフローラの方が人気が上かもしれない。


 もし、金銭で一夜を共に出来るなら俺は間違いなくその金を稼ぐために粉骨砕身すると断言できる。



「ふふ、紳士的な方は嫌いではないですよ。では、少しお話をしましょう。セイジロウさんとお呼びしますね。どうやら、異国からの旅人とされていますが、具体的な目的は何でしょうか?」


 と、俺にとってはかなり痛い質問だ。具体的と言ってもこの世界の文化や知識は何も無いからな....


「私は早くに色々と様々なところに赴きました。育った場所とは違い数々の人や文化にふれてきました。そこでは、多くの事を学び見識も深まりましたが、まだ見ぬ文化や人々はたくさんあります。私はこの世界をもっと知りたく、今は訪れたこの街が知りたいと思ってます」


「それが理由で街に? そして街で行動する為に身分証が必要だと?」

「はい。本当なら大事に持っていなければいけない身分証なんですが.....無くしまして...」

 俺は、困り顔をしつつ恥ずかしげに言った。


「.....まぁ、それぞれの事情はあります。冒険者ギルドは年齢制限はありますが、10才以上からは無料で登録ができます。冒険者ギルドで依頼をこなしてくれるならば、多くは望みません。もちろん、罰則もありますし、事と次第によっては命の保証は自己責任だと理解の上でよろしいですか?」


 言ってる事はかなり物騒だが、これもファンタジー知識で知ってるから理解はできる。


「はい、そこは理解してます。」

「なら、冒険者ギルド規定の説明を聴いた上で判断をお任せします......アーリアっ!セイジロウさんに説明をしてあげてっ!....では、セイジロウさんアリーナから説明させますので」


 と、受付嬢のアリーナさんとまたカウンターへとむかった。


 俺は何とか自分の秘密を隠し、冒険者ギルド登録をした。

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