取られたミイラがミイラ取りになる日

 実家に詐欺の電話がかかってきたと、祖母が電話口でそう語った。

 相手は市役所職員を名乗り、医療費が払い戻されるとの口実で口座番号を聞き出そうとしたらしい。

 そして祖母はまんまとその手口に引っかかってしまったのだと。

 それを聞いたときはもちろん気が気ではなかった。

 だが、事後に被害者を責めたり、あのときああしていればと存在しない並行世界の話を持ち出しても時間は巻き戻らない。

 ここはせめて身内として、命が助かっただけでも儲けものだと温かみのある言葉をかけるべきだろう。

 一両損するより一命取り留める方が得なのだ。

 そう頭を切り替えたときだった。

 祖母の口から、詐欺の被害に遭ったのは嘘だという真実が明かされたのは。

 詐欺の電話がかかってきたのは事実だが、訝しんだ祖母の態度を察した相手は即座に電話を切ったという。

 実害がなかったのは喜ばしいことだが、詐欺の電話に騙されそうになった祖母が、今度は私を電話で騙すという妙な連鎖に組み込まれてしまった。

 ひょっとしたら、お前も気をつけろという祖母なりの忠告のつもりだったのかもしれない。

 私は祖母とは真逆に、あるいは祖母の代わりに、まんまと引っかけられてしまったというわけだ。

 やはり年の功にはまだまだ敵わないらしい。

 実に四月一日のささやかな事件であった。

 この話を読んで、あまりにも出来すぎではないかと思う人もいるかもしれない。

 けれども信じるか信じないか、騙されるのか騙されないのかはあなた次第です。

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