第24話 後輩からの告白

「あぁ。舞にどう思われようが、俺は舞の彼氏を作るのを阻止する。その意志だけは変わる事はない」


そこは一番変わって欲しいのに、より強固な意志となった。

周囲の子供達は『大人の恋愛って子供には難しいな』などという顔をしていたが、子供達が大人になったとしても舞達の関係はきっとわからないだろう。舞にもよくわからない。


「とりあえず、助けて貰った事にはお礼を言います。ありがとうございました」


尾行されたとはいえ兄志望の男子達が監視していたおかげで舞は助かった。その点には感謝している。

素直な彼女の言葉に赤坂達はでれっと頬をゆるませた。


「いいんだ、妹を助けるのは当然なのだから。不良の一人や二人、どうという事はない」

「本当に助かりました。不良なんて本当にろくでもないですよね。謝ったのに人に絡むとか、本当にどうかしています」


いきなり始まった舞から不良批判に、何故か赤坂達は瞳をそらした。


「あ、黄木先輩は違いますよ。黄木先輩も格好から誤解してましたが、あの不良とは全然違います。助けに入るなんてなかなかできる事じゃありません」


舞からきらきらした瞳を目を向けられ、黄木も居心地の悪い思いをした。少し前の赤坂の企みは決行されなくて本当に良かった。


「せ、先輩っ! よかった、無事だったんですね!」


そこへ忘れかけていた黒川の声がした。

黄木により連れ出されふり落とされた黒川は、ようやく舞達に追い付いたらしい。


「黒川君、大丈夫だった?」

「はいっ!さっきはすみません、僕、つい怖くなってしまって……!」

「いいんだよ、仕方ないよ。あんなのに絡まれたんだから」


普通、突然何者かに掴みかかられれば、恐怖で何も言えなくなるに違いない。助けに入る黄木が勇気がありすぎるだけだろう。

舞としては最初に庇ってくれた事を評価したい。


「……先輩は、この方達ともお知り合いなんですか?」


ここでようやく黒川は赤坂達の存在に気付く。その中には不良から助けた男と橙堂が含まれているため、そう察するのだった。


「あ、うん。一応ね、学校の先輩だから」

「……大事な話があるんです。今、いいですか?」

「え、今っ?」


付き合っていない男女のデート中に行われる大事な話と言えば、告白であるかもしれない。先ほど不良に絡まれる前だって黒川は何かを伝えようとしていた。

しかし今、こうして人が多い時に話すのは強気だ。


「ずっと、先輩が卒業する前から思っていた事なんです。先輩が卒業してからは言えなかった事を後悔しました」


黒川の告白が始まろうとしている。

それを止めたいと思う橙堂は赤坂に視線で意見を求めるが、赤坂は無言で首を振る。告白ぐらいはさせてやろうという意味なのだろう。


「今日は出かけられて楽しかったです。けど、欲張りですね。こんな時間がもっと続けばいいのにって思ってしまいます」


真剣な様子の黒川に、それを見守る赤坂達と舞の緊張は増していた。心臓が激しく音を立てる。

そして黒川は本題に入った。


「だからお願いする事にします。先輩、僕のお姉さんになって下さい!」

「…………え?」


普通、ここは『僕の彼女になって下さい!』とでも言う所で、もちろん舞もそう言われると思っていた。

しかし言われた言葉は違う。姉になって欲しいという告白だった。


「先輩、可愛い見た目なのにしっかりしてて、まさに僕の理想の姉なんです!」

「え、ええと……」

「だから『お姉ちゃん』と呼ばせて欲しいし、今日みたいにもっと出かけたいと思うんです!」


つまり、赤坂達七姉妹会の別バージョンだった。というか『妹』を『姉』に変えただけだ。


「橙堂さんやその人達が彼氏だとしても僕は構いません。こんな素敵な人なら『お義兄さん』と認めないと」


ただしそこは赤坂達と違うらしい。

道理でこうして彼らを目の前にして自分の気持ちを言えるはずだ。

納得はした。しかし舞はその言葉を受け入れる事ができない。


「……ごめんなさい。私は黒川君のお姉さんにはなれません」


深く頭を下げて、舞は断った。舞にとって彼は後輩で弟のようにかわいいが、姉になるのは難しい。


「……どうしても、ダメですか?」

「血の繋がりも家族の関係もない相手を兄弟として扱うなんて、私には無理だと思うから」


その言葉には黒川だけでなく赤坂達までが落ち込んだ。

兄と弟。どちらとも否定されてしまったからだ。

しかし慣れてる分赤坂達の浮上は黒川よりも早い。


「気にするな、黒川君。今はまだ舞も分かってくれないが、いつかわかってくれるさ。兄弟のありがたみを」


先にきつい事を言われた分、赤坂には耐性があった。これからならば舞が姉や妹になるとでも言うように励ます。


「君はその時まで後輩で居ればいいんだ。そしていつかこの思いが彼女に届く日が来るだろう」


「は、はい!誰だかわからないけれど、ありがとうございます!」


そして話がまとまってしまった。姉として振ったのは舞であるはずだが、何故か納得がいかない。

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