第47話 小さなアパートで大きな勇気を(4)
眩しいくらいに反射している鋏を前にして、時間が止まった気さえした。
「は!私を殺す気?いいよ、やってみろよ!」
「……」
座ったまま鏡に向かって吠える姉は、人の顔じゃないように見えた、醜く歪んだ汚い表情に、鋏が突き刺さっても仕方ないとまで思えるくらいに。
後輩は無言のまま息を荒げて、手元の鋏が見えないほどに痙攣していた。一筋の涙が悲しそうに流れるのを見て、飛び出すように後ろから抱き付いた。痙攣する後輩が凄い力で抜け出そうとしても、そのまま後ずさるように抱えたまま、裏口へと引きずるように後退していく。
「あんたには関係ねえだろ!」
姉の怒号に後輩が強張っても、これ以上辛い思いをさせたくなかった。もっと早く助けてあげるべきだった。
「……店長、離してください。もういいんです」
優しい後輩から聞いたことの無い、圧力のかかった声に背筋が凍りつきながらも、聞こえないふりをし続けた。
「お客様すみません!少々お待ち下さいね!すぐ戻りますから!」
パニックになりながら言葉を吐き出して、飛んでくる罵声が耳を通過していった。とにかく後輩が心配で、何とかしてあげたかった。こうなる前に私が絶対に何とか出来たはず、先生なら上手く立ち回ったいたはず。
色んな考えが渦巻いたまま、壊すように裏口への扉を開けた。踊る心臓に全身が熱くなったまま、溢れ出すように息を吐き出して動けなかった。足が震えて立っていたくないけれど、ここで折れる訳にはいかなかった。
「はあ、はあ。落ち着いて……。お願いだから……。お願い……」
気付いたら涙が溢れていた。
「……許せません。店長と美容院を馬鹿にされて、あんな奴……」
「お願い……。私が何とかするから、今は我慢して。ここで何か起きちゃったら、先生が帰って来れなくなっちゃうでしょ。ううん、そうじゃない。私は、あなたをこれ以上……」
切り裂くように、目の前のドアが激しく叩かれた。
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