第37話 決意(2)

 鏡に映る自分は、もう自分じゃないみたいだった。それは見た目だけじゃなくて、初めて夢を持って、誰かのために何かをしたいと思ったからかもしれない。いつも生気の無い、虚な瞳をしていたはずが、髪を切って化粧をしてもらっただけで、そして、初めて好きになれた人の悩みや、頑張ろうとしている姿を見て、鏡に映る私は見たことの無い、輝いた瞳をしていた。


 私も自分を変えてくれた、この人のために何かをしたい。


 悩んだり暗い過去を持っている人を、少しでも前向きな気持ちにしてあげたい。救われたような今の気持ちを、誰か悩んでいる人にも伝えたい。


「私、美容師になりたいです。こんなに自分が変われるなんて、誰かをこんなに充実した気分に出来るなんて凄いです!まるで魔法でもかけられたみたいに、鏡を見てるだけで嬉しくて。今まで辛いことが沢山あって、何のために生きているんだろうって、良く考えていたんです。いじめられないように、理由もなく勉強してきました。どうせ社会に出ても嫌な人が沢山いて、嫌な思いをするためだけに産まれてきたのかなって。誰も信じれなくて、誰とも仲良くしたくなくて。でも……」


「うんうん」


 彼女は、ただ優しく頷いて聞いてくれた。それが嬉しくて、こんな気持ちになるのが自分でも不思議だった。


「本当は誰かとデートとかしてみたいんです」


「ふふ、そうよね」


「お洒落だって興味が無いふりをして、強がって内心馬鹿にしたりしてたけど、羨ましかった……」


「うんうん、これから沢山出来るわよ」


「私も、誰かを変えてあげたいんです。変われるよって伝えてあげたいんです。本当に辛かったから……」


「その気持ち分かるわよ。やっぱり優しいのよ、あなたは」


「私が……、この店を……」


「ふふ、ゆっくりで大丈夫よ。今日は他に予約のお客様入れてないから。今まで辛かったのね、もう泣かないで大丈夫よ」


「……はい」


 私が美容師になって、この店を守ります。だから、安心して彼を探しに行ってください。そう言いたかったのに、思いが溢れるように流れて、自分が何を言っているのかも分からないまま、気付いたら涙が止まらなかった。こうして優しく頭を撫でてくれる彼女が、お母さんだったら良かったのに……


「あなたを紹介した男の子がね、『変わってほしいと思っている女子を紹介するので、カットしてあげてもらえませんか?』って、言ってたのよ。あれは下心とかも無かったわ。きっと、今のあなたのように考えていたのでしょうね」


 今なら、その気持ちも分かる気がしていた。でも、彼が美容師になりたいと言うなら、止めた方がいいと彼女は言っていたから、私も止められると思っていたのに。彼女はただ、優しく話を聞いてくれていた。

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