第2話
我ながら、今にも泣きだしそうな弱々しい声が漏れた。実際、目の奥が押さえつけられたように痛かった。
「お、おい。大丈夫かよ? 顔色悪過ぎるぞ。唇が真っ青じゃないか」
ユウジは心底心配しているようで、俺の肩に優しく触れ、席へと誘導してくれた。力なく椅子に身を預けると、大袈裟にきしむ音が響いた。周囲の雑音が、遠のいていく感覚に陥っていた。遠くの方からチャイムが鳴っており、次の授業の教師が教室に入ってきた。ユウジと教師が会話しているようで、突然俺は上へと引っ張られた。
「俺がこいつを保健室に連れて行きます」
耳元でユウジの声が聞こえた。
だが、俺の脳裏には、悲しそうな表情を見せる祖父の顔が浮かんでいた。奥歯を噛み締める。油断すると、涙が零れてしまいそうだ。俺は、その祖父の顔を実際に見たことがある。
祖父が病院のベッドで横たわり、息を引き取る瞬間に見せた顔だ。
―――マサキ・・・じいちゃんの―――
俺は髪の毛に絡まった蜘蛛の巣を振り払うように、激しく頭を振った。
祖父の大切な銀時計。どうして、銀時計を大切にしていたのか、祖父が亡くなった後に祖母に尋ねたことがある。すると、祖母は、嬉しそうに、目を細めた。
「あの懐中時計はね。おばあちゃんが、あげたものなんだよ」
俺は祖母の顔から眼を逸らした。祖父と祖母が結婚した時に、祖父は結婚指輪を祖母に渡した。そのお返しとして、祖母は銀時計を渡したそうだ。結納返しと言うらしい。その銀時計を祖父は、大切に大切にしていた。その銀時計がなくなった。
俺は保健室のベッドの上で、仰向けになっている。茫然と天井を眺めていた。目を閉じて深呼吸をするが、瞼の裏側に祖父の顔が張り付いている。居ても立ってもいられなくなって、俺はベッドから飛び起き、保健室を出た。静まり返る廊下を全力で走ると、背後から足音がついてくるように響いている。職員室の扉を乱暴に開くと、数人の教師が注目した。俺は、それぞれの大人の顔に視線を向けていくと、幸いにも担任教師が目を丸くしていた。俺は足早に担任教師の元へと駆け寄り、深々と頭を下げた。
「先生、お願いがあります」
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