10話

 圓治の動きに合わせ、美緒の口から声が漏れる。


 圓治が乳首を口の中で転がす。時折甘噛みをされる度、ピリッとした僅かな電気が体を走るようだ。美緒は圓治の頭を抱え、子供を撫でるように圓治の髪を撫でる。


 リズミカルに動かす腰が、時折止まり、円を描くように美緒の中を犯す。


 圓治のペニスが、美緒の膣を広げるようにかき回される。そのペニスを、美緒は力を入れて締め付ける。


「ああっ! 良い締まりだ! やっぱり、若い子は違うな!」


 跡が付くほど胸を力強く揉まれた美緒は、笑いながら「そうでしょう?」と囁き、更に下腹部に力を込める。


「行くぞ! 美緒! 出すぞ!」


 美緒の中でペニスが膨張するのが分かる。内壁が押し広げられ、美緒は一瞬息苦しくなるのを感じた。


「きて……」


 美緒の手がシーツを掴む。


 圓治の腰が早くなり、美緒も快感のボルテージを上げた。内側から灼けるような熱さが込み上げてくる。腰の辺りがビクビクと動き、痙攣を起こしそうだ。


「イクッ! イクッ!」


「イイッ、私も……!」


 圓治は美緒を抱えると、美緒の中に大量の精を放出した。


 ビクビクと美緒の中でペニスが震える。美緒は弛緩したヴァギナで優しくペニスを包み込んだ。


「さあ、お掃除して」


 美緒からペニスを引き抜いた圓治は、コンドームを外すと、精液が滴り落ちるペニスを口元へ持ってきた。


「うん……」


 美緒は体を起こすと、舌を出して亀頭から滴り落ちる精液を舐め取り、それから咥えた。


 初めは慣れない精液の味だったが、それも回数をこなすとあまり気にならなくなった。


 竿まで丁寧に舐めた美緒は、ベッドから降りるとシャワールームへ向かった。


 毎週土曜日。お昼を食べてからのホテル。それは、美緒と圓治の習慣、ライフスタイルの一部と化していた。


 長い髪をバレッタで留め、その上からタオルを巻く。長い髪が汗臭いのは不快だが、濡れた髪を乾かす手間を考えたら、それも仕方がない。


 薄く施した化粧が落ちないように、美緒はシャワーで汗を流す。


 幾度となく圓治のペニスを受け入れてきた陰部も洗い、美緒はホッと息をつく。


 いつもより、気持ちの良いセックスだった。圓治の言ったとおり、慧の存在がセックスをよくしたのだろうか。


 まだ体が火照っている。特に、ヴァギナが熱を持ったようにジンジンしていた。


「…………」


 鏡に映る姿を見てみる。形の良い白い胸には、圓治が付けたキスマークが、マーキングのように付けられている。


 これを慧が見たら、彼はどんな顔を浮かべるだろう。あの少年のような穢れを知らない顔が、どのように歪むのだろうか。


『救いようのない女ね』


 ハッとした。


 振り返ると、湯気の向こう、扉の前に『少女』が立っていた。


 いつも通りの黒い服。澄ました顔の『少女』。


『本当に、それでいいの? こんな関係をずっと続けるつもり?』


 シャワーの音を貫いて、『少女』の声は耳に響く。


「どうだって良いじゃない。彼は、圓治は私を必要としてくれる。私だって彼が必要なの」


『お金でしょう? 本当は分かっているんでしょう? 安いお金で体を売る。その事の意味が。セックスをする度、あなたのなかで何かが壊れるのが』


「放っておいてよ! 何が言いたいの? これは私の体! 私がどう使おうと勝手じゃない!」


『バレたらどうなるか、分かっているんでしょう? 危険な道よ? それだけのリスクを冒してまでも、やること?』


「放っておいてって言ってるでしょう!」


 美緒は『少女』に向かって桶を投げつけた。桶は少女の脇を掠め、ドアに当たった。


『救いようのない、愚かな子』


 『少女』は音もなく消えてしまった。


「美緒? どうかしたか?」


 部屋から圓治の声がしてきたが、美緒は「大丈夫」と答えた。


「今更、どうすることもできないじゃない」


 興が冷めてしまった。気持ち良かったセックスの余韻に浸ることもできなかった。


 美緒がシャワールームから出ると、圓治はスーツに着替え終わっていた。曰く、汗をかいていた方が、仕事をしてきたように思わせることが出来るとの事だ。だが、本当はシャンプーやボディソープの香りを纏って家に帰ったら、嫁に気づかれる可能性があるからと言うことを、美緒は知っている。


 美緒は着替えようと、服に手を伸ばした。


「…………」


 美緒の手が止まった。


 ソファーの上に畳んでおいてあった服。上着から脱いで、スカート、ブラジャー、一番上にローライズのピンク色のショーツが置いてあったはずだ。


「俺が記念に貰った」


「え? どういうこと?」


「来週まで、これでオナニーをするよ」


「私、履いて帰るのないんだけど?」


 圓治はポケットから美緒のショーツを取り出す。買ったばかりの、ブラジャーとセットのショーツだ。ショーツを広げ、陰部が当たる部分に鼻を近づける。


「少し臭うね」


「当然でしょう? 女の子は下り物で汚れやすいの。冗談を言ってないで、返して」


 声のトーンが変化したのは、自分でも分かっていた。先ほどの『少女』との会話で、心が乱れている。酷くイライラしていた。


「買って帰れば良い」


 圓治は、茶封筒を寄越した。


 戦利品であるショーツをポケットにしまった圓治は、ベッドサイドに腰を下ろし、タバコを吸い始めた。


 何を言っても無駄だと判断した美緒は、茶封筒を受け取ると、着替え始めた。


 帰りに、駅前のデパートで新しいショーツを買って帰るしかない。余計な煩わしさが増えたことに、美緒はこれ見よがしな大きな溜息をついた。

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