第198話 らいばる(紫乃)

 紫乃は緊張をほぐそうと扉の前で深呼吸をし、すっと目を閉じる。


「……よし」


 手鏡で前髪や顔全体を確認してから、意を決してインターホンを鳴らした。


『はーい?』


 こういうのは少し待たされるものだと思うが、予想を裏切られ、すぐにスピーカーから可愛らしい声が聞こえてくる。

 さっき落ち着かせたにも関わらず、また鼓動が早まってきてしまう。


「こんにちは〜。紫乃です〜」

『あー、紫乃さんですか。ちょっと待っててください』


 ブツンと途切れると、だんだん足音が近付いてくるのがわかった。

 それに比例するように、自分の心音もだんだんと耳へ迫ってきた。


「あ……」


 扉が開かれるそこには、”秘密”を共有している者――美奈が立っている。

 その“秘密”のことについて話に来たわけだから、緊張するのも当たり前だ。


「珍しいですね、紫乃さんがうちに来るなんて」


 下ろしたセミロングの髪に、美久里とそっくりな顔立ち。

 強いて言えば、美奈の方がつり目な感じになっているくらいで、中学生にしては背が少し高くて紫乃と同じくらいというところ。

 美久里も背が高い方ではあるし、少し羨ましいと感じる。


「久しぶりだね〜、美奈ちゃん」

「お久しぶりです。えっと、用件は……って、ここでじゃない方がいいですよね。どうぞ、あがってください」

「それじゃ、お邪魔します〜」

「はーい」


 なにげに、紫乃がこの家に入るのは初めてだ。

 そういうのもあってか、余計に心臓の音がうるさくなってくる。

 しかし、紫乃は毅然と振舞うことを心がける。


「それで、用件とは?」

「えっと……実はね……」


 そうして話し終えた時、美奈は目を丸くしていた。

 紫乃はできるだけ柔らかく、ふわふわした口調で話すことを気をつけた。


「じゃあ、僕はもう帰るね〜」


 これからは、“秘密”を共有している仲間というわけにはいかないだろう。

 むしろ、バチバチ火花を散らすライバル……みたいなものになるに違いない。

 今日紫乃は、宣戦布告をしにきたのだ。


「あの子のこと、決着つけないとね」


 紫乃はそうつぶやくと、なるべく丁寧に玄関の扉を閉めた。

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