第112話 とうさつ(葉奈)
「そういえば、スマホってそんなに大きくなくてカメラついてるから盗撮とかに使われそうっすよね」
葉奈が何気なくそう言うと、朔良が後ずさる。
顔が引きつっていて、本気で引いているのが見て取れる。
「えっと、『そういう危険があって怖いね』って話っす!」
「そうか……」
「盗撮防止するためにシャッター音が鳴るようになってるけど、無音で撮影できるアプリとかあるっすし……こうやって鞄に何気なく入れて電車の床に置いたらほら、スカートの中とか……」
「……それ、やられたことあるからシャレにならねーんだけど……」
そうやって、嫌そうな顔をしながらさらっととんでもないことを言い出す朔良。
葉奈はそれについて聞き流そうとしていたが、途中で「ん?」と怪訝そうな顔つきになった。
そして、葉奈は目を見開いて朔良を強く抱きしめる。
「だ、だだだ大丈夫っすか!? 誰かに貞操狙われてるんすか!?」
「いや、落ち着けよ。あたしそんな気にしてないし」
朔良はなんでもないように言うが、盗撮されて平気な人なんていないだろう。
少なくとも葉奈だったら、間違いなくそいつを通報している。
いや、蹴りの一発や二発は食らわせているかもしれない。
「い、今からでも訴えに……!」
「今からは無理だろ。絶対しらを切られて終わりだから」
「さ、朔良はそれでいいんすか……?」
葉奈は心配そうに訊く。
そんな風に泣き寝入りするなんて、朔良らしくない。
なぜ朔良はこんなに消極的なのだろうか。
朔良は言いにくそうに、自分の心の内をさらけ出した。
「……世の中、どうにもならないこともあるだろ……」
それは悔しそうにも、悲しそうにも聞こえた。
「だ、大丈夫っす! うちが……うちが守るっすから!」
葉奈はその声と表情に耐えられなくなって、そんなことを叫んだ。
そう言われた朔良は、少しだけ嬉しそうな顔をしていた。
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