第88話 めんどう2(萌花)

「なるほどにゃ、それで小鳥に餌を……」

「はい」


 鳥かごの中で羽を毛繕いする小鳥を眺めながら、数日前からこの小鳥を世話していたことを彼女に話す。


 そう。萌花の背後に居た人とは、瑠衣だった。

 まさか教室から付いてきていたのだろうか。

 しかし、一体何のために――


 萌花の話を聞き終えた瑠衣は、少し含みのある表情で萌花をまじまじと見つめる。

 何か気に障ってしまったのかと身構えていた萌花だが、そういうわけではないらしく……急に瑠衣は真剣な顔つきになった。


 その顔を見上げると、真剣というよりも……どことなく恥ずかしがっているように見えた。


「あの……?」


 このまま見つめられているのは、萌花としては恥ずかしくてどうしようもない。

 何をどうしたのか、それを聞こうと話しかけた……その数瞬後のタイミングで瑠衣も口を開いた。


「あー……その……瑠衣は瑠衣だにゃ。って、それは知ってるよにゃ。えっと、なんだ……その……」


 改めて自己紹介をした瑠衣の視線は泳ぎ、何故か明らかにあたふたとしている。


 何を言おうとしているのかは分からないが、瑠衣は大きく深呼吸をした後、柔らかな笑顔で萌花の顔をキッチリと見据えた。


「瑠衣と友達に……とかにゃ。そういうのって、どうかにゃ……?」


 その言葉はしっかりと耳に届きはする。

 だが、その処理が追い付かなかった。


(友達……? え、何言って……あれ?)


 瞬時に全ての理解はできなかった。

 だが、処理が追い付いていなくとも、しかし萌花の脳のどこかしらは理解してくれたらしい。


 そして同時に、この瞬間。

 瑠衣がくれたその暖かな笑顔と言葉が——


 ——少し凍りついていた萌花の心を、優しくくすぐった。

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