第86話 ほらー(瑠衣)

『後の撮影陣の行方を知るものは、誰ひとりとして居なかっ――』


 その音声が完全に流れ終わる前にDVDを取り出し、約一時間の鑑賞を終える。

 誰かと一緒に観た時、本来は「あのシーンはどうだった?」とかの感想タイムに突入するところなのだろう。

 しかし、瑠衣たちは……


「……みくにゃん」

「うぅ……分かってるよぉ……それ以上言わないで……」


 期待していたクオリティには毛ほども届いていなかったわけである。


「ワゴンに放り込まれているものって、ごくたまに大当たりだったりするから……私はそれを信じてたの……」


 美久里の考えは瑠衣にもわかるが、それにしても中々酷いものだった。

 明らかにヤラセと分かる恐怖シーンと、普通の一軒家を少し改造しただけの廃墟。

 おまけに一般人として紹介されるブームの過ぎ去った芸人に、瑠衣は見事に製作陣にしてやられた気分を味わっていた。


「……まぁほら、違った意味で涼しくなれた感じがしたしにゃ……その……にゃ!」

「うぅ……その心遣いが逆につらい……」


 とぼとぼと棚に向かった美久里だったが、少し棚を漁ると嬉々とした表情でまた戻ってくる。

 その手には案の定、『本気でヤバい心霊スポット100選! 呪われ覚悟の調査集』と書かれたDVDが握られていた。


「み、みくにゃん……それって……」

「こ、今度こそは大丈夫! 同じようにワゴンに入ってたやつだけど、今度こそきっと面白いはずだから!」


 さりげない「多分」とのつけ足しは、しっかりと瑠衣の耳に届いた。


 意気揚々とセッティングを始める美久里は、またもや漂う圧倒的な地雷臭に気付いていないのか。

 はたまた、それを楽しんでいるのか。


 恐らく前者で、本当に楽しそうに期待していそうなので、瑠衣も下手に口を出すのはやめておいた。


 というか実は。

 美久里が新たなDVDを持ってきた時から、既に瑠衣も覚悟が決まっていたりする。


「よっしゃ! こうなったらもうトコトン付き合ってやるにゃ! クソ作品でも何でもかかってきやがれにゃあっ!」

「あ、瑠衣ちゃんノリノリだね! これ含めて残り8本頑張るぞー!」

「にゃっ? ちょ、残り8本って――」


 瑠衣の言葉が聞こえているのか分からない様子の美久里は、セルフで「おー!」と掛け声を上げる。


 しかし瑠衣としても、ほぼ確実につまらない作品を見続けることが決まった割には、妙に高揚した気分なようだった。


 隣に座っている彼女、美久里と一緒だからこそ感じる、この落ち着きの中だからなのか。

 まず間違いなく、しょうもないことで浪費しているこの時間は——


「ほら、始まり方がさっきと同じだよ!」

「うわぁ……ってことはもうダメなやつじゃないかにゃ……」


 ——美久里と瑠衣二人の、かけがえのない時間だった。

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