第77話 ちょうしょく(美久里)

「なにこれ……すごい……」


 美奈が作ってくれたらしい朝食を見て、その一言しか言えなかった。


 目の前に並べられてる皿の数は多くない。

 しかしそのどれもが、今まで見た何よりも美味しそうで美久里の食欲を唆る。

 料理スキルのない美久里には到底到達しきれないほどのレベルだ。


「こ、こここここれ! これ全部! 美奈が作ったの!? 本当に!?」

「うん、そうだけど?」

「うそ……でしょ!?」


 確かに、今までも美奈に毎日料理を振舞ってもらっているが、ここまでのものを見たことがなかった。


 すごく驚いた内心をグッと押し込んでいると、美奈が少し困ったような表情をしているのに気が付いた。

 少し不安そうな様子で、こちらを見ている。


「ちょっと、変だったかな……?」


 こてん、とあざとい仕草で首を傾げて問いかけてくる美奈に、美久里の答えはもちろん決まっていた。


「そんなことないよ! すごく嬉しい! ありがとうございます!!」

「最後なんで敬語……?」


 美久里は即答する。ちょっと食い気味の即答を。

 自分でも引くくらいの食い付きに、美奈はあまり気にしていなさそうだった。

 敬語の方は気にしていたが。


「でも、良かった……おねえに喜んでほしくて作ったから……安心したよ」


 心の底から安心したような様子の美奈。

 その様子に美久里もほっとしつつ、美味しそうな料理が並べられてるテーブルに座る。

 それを見て、美奈も同じように座った。


「どうぞ、召し上がれ」

「――いただきます!」


 美奈が作ってくれた温かいご飯に、美久里は少し目頭が熱くなった気がした。

 ここまでしてもらっているのに、何もお返しが出来ない自分に腹が立ってくる。

 せめてお菓子でも作れるようになりたいが……


「おねえ、私ね……おねえのことが好きだから色々するんだよ? だからお返しとかいらないからね」

「美奈……」


 嬉しいことを言ってくれる美奈を、美久里は優しく抱きしめた。

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