第57話 せいちょう(朔良)
この気持ちを、誰にも打ち明けずに過ごさなければならない。
絶対にバレてはいけない。もしバレたら、その時は――
「魔央ー! あのさ、今からすごいこと言っていい?」
「言わなくていい」
「ケチー。ちょっとぐらい聞いてよー! あのね、私――ガーネットをしばく方法考えた!」
「……何言ってんだ」
……そう。
絶対に、バレてはいけないのだ。
☆ ☆ ☆
「おー、いいんじゃないっすか? 心情がすごく分かりやすいっす」
「そ、そうか……?」
葉奈の弟子のような存在になった朔良は、師匠のような存在である葉奈に自分の作品を見せていた。
その葉奈に褒められ、朔良は恥ずかしそうに頬を紅く染める。
少しは成長しているだろうか。
「ただ……もう少し情景描写を入れた方がいいかもしれないっすね」
「あー、そうだよな」
どうにも情景描写というものは苦手である。
その理由なんてものは分からない。
強いて言うなら、どんなふうに書けばいいのかが分からないのだ。
朔良がそうやって悩んでいると、葉奈が困ったように顔を顰める。
どうやってアドバイスをしたらいいのかを考えてくれているようだ。
そういう人間的魅力に、心惹かれるものがある。
「まあ、どうやって書くかっていうのはその人次第っすからね。『こうしたら絶対よくなる』ってものはないっす」
「……そういうものなのか……」
「そういうものっす」
登場人物の心情を答える問題に厳密な正解がないように、小説の書き方にも厳密な正解はないのだろう。
そういうものだと理解する。
「とにかく書くしかないっすね。書いていれば自然と身につくものもあるっすから」
「な、なるほど……」
つまり……これはあれだ。
『考えるな、感じろ!』ではないだろうか。
そんな朔良の思考を読み取ったのかどうなのか定かではないが、葉奈が元気づけようとする。
「ま、頑張れっす」
爽やかな笑みを浮かべ、朔良の頭をポンポンと撫でた。
それを受けた朔良は恥ずかしそうに笑う。
「……おう」
少しでも葉奈に追いつきたい。
その思いが自分の成長に繋がればいいと、朔良は考える。
多分それが、一番の近道なのだろう。
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