第44話 がくえんさい3(美久里)

 午前中はシフトが入っていないので、好きにまわることが許された。

 とはいえ、午後にはクラスに戻って仕事をしなくてはならないのだが……それはさておき。

 美久里は同じく午前中が空いてる萌花と行動を共にしている。


「どこまわります?」

「うーん……結構色々あって迷うなぁ……」


 萌花がそう聞いてきたけど、美久里はそれに答えることが出来なかった。

 優柔不断なせいもあってか、なかなか決められない。


「確かにそうですよね…………ん?」


 急に萌花が立ち止まる。

 美久里はそれに倣って立ち止まり、萌花の視線の先を追う。


 そこには、お化け屋敷を彷彿とさせるお店があった。

 受付らしき生徒は普通の格好をしているが、その背景が普通じゃない。

 というのも、壁がほとんど真っ暗で、お化けのイラストが描かれた飾りが貼られている。


「……入ってみる?」


 特に行きたいところのなかった美久里は、萌花にそう提案する。

 だが、萌花は複雑そうな顔でお化けのイラストを見つめるだけだ。

 もしかして……


「萌花ちゃん、お化け屋敷とか苦手?」

「……ちっ! 違いますっ!」


 何気なく訊いただけだが、萌花の声が妙に裏返った。

 図星なのだろうか。


「わ、私は別にそんな……」

「じゃあ入ってみない? 面白そうだし!」

「えっ!! ……え、ええ。いいですわよ?」

「……誰?」


 なぜか萌花のキャラがおかしなことになっている。

 キャラというか、主に口調が。

 しかも目が変に泳いでいて、焦点が定まっていないようだった。


 だけど、それほど気にするほどのことではないと思っていた。

 ……あの時までは。

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